おやぢの部屋2
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WAGNER/Siegfried










Wolfgang Windgassen(Ten)
Astrid Varnay(Sop)
Joseph Keilberth/
Orchester der Bayreuther Festspiele
TESTAMENT/SBTLP 0111(LP)



「おやぢの部屋」始まって以来の、LPのレビューです。今や音楽ソフトはCDの時代からSACD、そしてネット配信と「進歩」の一途をたどっていますから、そもそも「LPの新譜」などあり得ない、とお思いでしょう。私もそう思っていました。ところが、ここにきて、いきなりLP19枚組の「指環」が新譜としてリリースされたというのです。レーベルを見てお気づきのことでしょうが、それはここでも一部ご紹介した1955年のバイロイトのライブ録音、DECCAが世界で初めてステレオ録音を行ったあの「指環」全曲です。もちろんこれはCDで初めて世に出たものなのですが、そのあまりのクオリティの高さに、いっそのこと、録音の時に想定していたフォーマットであるLPの形でリリースしてしまおうと、このメーカーは考えたのです。
全世界で限定1000セット、それぞれにシリアルナンバーが打たれているという、マニアにはたまらないものですが、このセットは分売なしの一括販売、値段も9万円という、「指環1曲」としてはべらぼうな価格設定となっています。いくら優れた秘密の工場(ここが明らかになると、注文が殺到するので、メーカーはその在処を知らせないのだとか)で作られたとはいえ、その製品の品質の保証は、聴いてみるまでは分かりません。そんなものに「9万円」というのは、ちょっと勇気のいること、そこで、メーカーが用意したのが、このテスト盤です。5枚組の「ジークフリート」の最後の面だけを(つまり片面)プレスしたというものです。これを聴いて大丈夫だと思ったら、全曲を注文してくれ、ということなのでしょう。
全くの真っ白なレーベルに、真っ白なジャケット、そのジャケットに貼り付けられた宛名シールのようなものに印刷されている曲名が、このLPに関する全ての情報という、まさに「テスト盤」(でも、2000円もします)、しかし、袋から中身を取り出して手に持ってみると、その重さはかなりのものがあります。その昔慣れ親しんでいたものとは明らかに異なる、それは文字通り「重量感」でした。この時点で、このLPがいかに手間を掛けて作られたものであるかがうかがえます。そして、しばらく使っていなかった、しかし、いつでも最高のコンディションで再生できるように調整してあったレコードプレイヤーにこのLPをセットし、針をおろした瞬間、想像もしなかったことが起こりました。そこからは、かつてさんざん悩まされたLP特有のサーフェスノイズが、全く聞こえてはこなかったのです。少し前にフルトヴェングラーのミント盤から板起こししたというCDをご紹介した時に、最初から派手なスクラッチノイズが聞こえてきた時には、そんな大騒ぎするほど条件の良いものでもこんな状態なのだから、これがLPの宿命だと、再確認したものでした。しかし、このLPから聞こえてきたものは、CDと比較しても遜色のない静寂さ、しばらくして、普通はそのサーフェスノイズに隠れてしまうテープヒスまでが聞こえてきたのですから、驚いてしまいました。LPというフォーマットは、本気になって追求すれば、ここまでクオリティの高いものを作ることが出来るのですね。
肝心の音ですが、ここから聞こえてきたヴィントガッセンの若々しい歌声の再生は、CDではかなり高級な装置を使わなければ難しいのでは、と思わせられるほど滑らかなものでした。もちろん、ヴァルナイの張りのある声も完璧にその細部まで聞こえてきます。皮肉なことに、CDで気になったオーケストラの粗さが、ますます強調されて聞こえてきたのは、それだけ、このフォーマットが元の音を忠実に伝えているということの証でしょうか。ヴァルナイが歌う例の「ジークフリート牧歌」でも使われたテーマのソロの前の弦楽器の、なんとお粗末なことでしょう。
ただ、LPの最大の欠点であった「内周歪み」が、やはりこの素晴らしいプレスでも解消できていなかったのは、仕方がないことでしょう。かなり余裕を持ってカッティングされてはいるのですが、それでもカートリッジが内周に行くに従い、特にボーカルでの歪みが多くなり、生々しさが薄まっていくのが分かってしまいます。そして、それよりも重大なのが、経年変化です。まるで廃人のようになるというあれですね(それは「定年変化」)。そうではなく、添加剤などがしみ出して、音が悪くなるという現象です。新品の時にこれだけのものを聴かせてくれたものが、しばらく経ってどう変わるのか、それを確かめるのも、楽しみなような、怖いような。
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by jurassic_oyaji | 2006-08-25 23:18 | オペラ | Comments(0)