おやぢの部屋2
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In Search of Mozart









Phil Grabsky(Dir)
SEVENTH ART/SEV 103(DVD)



モーツァルトの生涯についてのドキュメンタリーなどというものは、もちろんこの大騒ぎの日々ですから、それこそ「売るほど」世の中には蔓延していることでしょう。そんな「売り物」のDVDの一つを、さる知り合いの口車に乗せられて買ってしまったと思って下さい。ワクワクしながら見始めたそのDVDのあまりのつまらなさに、思わず口について出た「この無意味だった2時間を返してくれ!」という叫びは、一体どこへ向ければよいのでしょうか。
「番組」(だったんでしょうね、もともとは。あるいはテレビ映画?)の構成は、いたってシンプルです。モーツァルトが生まれてから亡くなるまでを、時系列を追って折々の手紙なども交えて紹介していく、というものです。良くあるドラマ仕立てのようなクサいものではなく、それはいかにも誠実味にあふれた手法のように見えます。「直球勝負」というやつでしょうか。しかし、しばらくこれに付き合っていると、何とも退屈な思いに駆られて、こらえようのない睡魔が襲ってくるのです。言ってみれば、何年も同じノートを繰り返して読み続けているだけという、大学の老教授の講義のようなもの、講義の内容は確かに学ぶべきものが沢山あるはずなのに、それを教える人がその事に対してなんの熱意も持っていない場合に起こる、不幸なコミュニケーションとまさに同じものが、このドキュメンタリーの制作者とそれを見る人との間に横たわっていたのです。
バラエティ番組ではないのですから、無理に盛り上げる必要はさらさら無いのですが、素材はあのモーツァルトですよ。こんな型通りの扱いを受けたのでは、さぞかし草葉の陰で悔しがっていることでしょう。そういえば、彼の息子は草場という名前でしたね(それは「クサヴァ」)。
一番いけないのは、高名なピアニストがモーツァルトの曲の一節を弾いてみて、「この和音やリズムは、モーツァルトにしかできないものでした」とか、「この部分はまるで恋人同士が語っているように、私には思えます」などという、愚にも付かない感傷的な主観の押しつけです。そんな番組を作った人が、「『アマデウス』には、多くの間違いがある」などと音楽学者に言わせているのですから、笑えます。このピアニストたちの勘違いのコメントは、「アマデウス」の罪もない無知よりもはるかにたちの悪いものであることを、この制作者は気づかなかったのでしょうか。
もちろん、そんな陳腐なコメントの間には、モーツァルトの名曲が実際に演奏されているクリップが挿入されるのは、この手の番組の常套手段でしょう。どんなに話が退屈でも、美しい音楽が流れてさえいれば、それだけで楽しむことが出来るはずですから。ところが、この音楽の部分がとても雑な扱いを受けているのですから、とても楽しむことなどは出来なくなってしまいます。曲のタイトルはとりあえず表記されるのですが、それを演奏している人の紹介が全くありません。これは、最後までこのDVDを見れば、そういう細かいことは「こちらのサイトで見てくれ」という案内があるので、あえて画面には出さなかった理由は分かるのですが、それは単に煩雑なことを避けただけの自分勝手なやり方としか思えては来ません。彼(ら)は本気で、いちいちインターネットにアクセスしながら、DVDを見るような人がいるとでも思っているのでしょうか。このような措置からは、演奏している人に対する制作者の敬意が全く感じられません。例えばオペラなど、今まで単独で見たことのあるクリップも使われているのですが、オリジナルに比べるとその画質と音質はとてもひどいものです。なぜこれほど劣悪なものを平気で使えるのか、それも、こういう制作姿勢を見ていると完璧に納得できてしまいます。
こんな番組の中にあると、ノリントンやブリュッヘンといった「真の」芸術家が語っていることまでが、妙に薄っぺらに聞こえてしまうのですから、不思議なものです。ブリュッヘンはともかく、ノリントンは自分が出ているこのDVDをジャケットで褒めちぎっているのですから、案外「俗物」だったのかも知れませんね。
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by jurassic_oyaji | 2006-09-06 19:52 | 映画 | Comments(2)
Commented by 龍治 at 2006-09-07 14:25 x
おやぢさん、こんにちは!!
コメントに応えて頂き有り難うございました。
それにしてもDVDは本当に残念でしたね。
空虚な2時間を過ごしてしまった貴方の苦痛と怒りは、
文章を見ていて手に取るように伝わってきます。

クラシックフリークの方ですか?
貴方の音楽的知識や文章力の高さには、
私も非常に感銘を受けました。
何か昔、楽器をなさっていたのですか?
自分もマントヴァーニの演奏に感動し、5年間ほど
ヴァイオリンを習っていたことがあります。
Commented by jurassic_oyaji at 2006-09-07 16:26
龍治さん、コメントありがとうございました。
アマオケでフルートを吹いたり、
昔合唱をやっていた仲間と歌ったり、
色んなことをやっています。
右の「リンク」が「本家」のサイトですから、ご一読を。