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M.HAYDN/Requiem
M.HAYDN/Requiem_c0039487_14520827.jpg


Werner Ehrhardt/
Kammerchor Cantemus
Deutsche Kammerakademie Neuss am Rhein
CAPRICCIO/71 084(hybrid SACD)



このCD、ミヒャエル・ハイドンの「ハ短調のレクイエム」の「世界初録音」となっています。こちらでご紹介したように、あのモーツァルトのニ短調のレクイエムにも影響を与えたとされる「ハ短調」のレクイエムには、すでにいくつかの録音がありますから、これは何かの間違い?と思っても、やはり珍しい曲であることには変わりはないので、一応購入してみました。そして、現物を手にしてよく見てみたら、ミヒャエル・ハイドンの作品番号である「MH」番号が、前のものとは異なっているので、まずは一安心です。すでにあったものは「MH 155」、1771年の作品ですが、今回は「MH 559」、これはずっと後の1792年以降に作られたものだということです。
この、言ってみれば「レクイエム第2番」、自筆稿は残っているのですが、作曲家の生前には演奏されてはいませんし、それ以後も演奏された形跡はないというのです。もちろん出版もされてはいません。この時代、通常こういう曲は特定のパトロンからの委嘱によって作られるものなのですが、その様な事実もないということで、これはハイドンが個人的に親しかった人の死を悼んで作っていたんでは、という推測が成り立ちます。そして、その人というのが、そう、それこそザルツブルク時代に何かと親交のあった、あのモーツァルトだったという可能性だって、なくはないのです。
そう思って、今回世界で初めて「音」になったこのCDを聴いてみると、まさにモーツァルトと、そして彼の絶筆となったレクイエム(ウィーンで初演されたのは1893年ですから、ザルツブルクにいたハイドンがそれを聴いて実際に自作に反映させたかどうかは謎ですが)へのトリビュートとして感じられてくるから、不思議です。あたかも「第1番」の中にあったモーツァルトの作品の萌芽が、「神童」の手によって花開くのを見届けたかのように、この作品の中には前作にはなかった多様で充実した世界が広がっているのを、誰しもが認めないわけにはいかないはずです。
ソリストを伴わない、合唱とオーケストラだけの編成、しかも、「Requiem aeternam」という歌詞の「Introitus」には曲が付けられてなく(実際に典礼で使うときにはグレゴリオ聖歌を使うつもりだったのでしょう)、いきなり「Kyrie」から始まるというちょっと変わった構成が取られています。そして、前作よりも格段のヴァラエティを持つようになったのが、7つの部分に分けられている「Dies irae」です。最初の「Dies irae」の激しさはまさにモーツァルトの作品の中にあったもの、その曲の後半となっている「Tuba mirum」も、アイディアとしてはかなりモーツァルトに近いものが感じられます。実は、そんな細かいことよりも、後半の「Sanctus」や「Benedictus」の最後の「Hosanna」の部分に、目も覚めるようなポリフォニックな処理が施されていることに、注目すべきなのかも知れません。この壮大なフーガは、まさにモーツァルトの「Kyrie」の二重フーガに匹敵するものではないでしょうか。
さらに終曲「Agnus Dei」には、ハイドンならではの素晴らしいアイディアが散りばめられています。後半「Commnio」の部分で「Cum sanctis tuis」という歌詞のところからは、やはり見事なフーガが展開されるのですが、それが一瞬収まると、なんとア・カペラで「quia pius es」と歌われるのです。その美しさといったら。そしてその後に、初めて「Requiem aeternam」の歌詞が出てくるという仕掛けです。その後、テキストに従い、音楽は「Cum sanctis tuis」のフーガに戻ります。そして、続くア・カペラの合唱で全ての曲の最後を迎えるという意表をついたエンディングには誰しも唖然とすることでしょう。2度目にそのア・カペラが出てくる頃には、そのテーマは実はフーガの中にすでに散りばめられていたことに気づかされます。何という巧みな技でしょう。
実は、ハイドンにはもう一つ1805年に着手したレクイエムがあるのだそうですが、これは翌年彼が亡くなってしまうため完成はされなかったという、まさにモーツァルトの曲のような運命をたどっています。この「第3番」が録音されて、私たちの耳に届く日は来るのでしょうか。その時には、この「第2番」のような余裕のない演奏ではなく、少なくとも合唱に関してはもっとハイレベルなもので接したいものです。
by jurassic_oyaji | 2006-10-10 23:33 | 合唱 | Comments(0)