おやぢの部屋2
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BEETHOVEN/Symphony No.9

Helena Juntunen(Sop), Katarina Karnéus(MS)
Daniel Norman(Ten), Neal Davies(Bar)
Osmo Vänskä/
Minnesota Chorale
Minnesota Orchestra
BIS/BIS-SACD-1616(hybrid SACD)



ヴァンスカとミネソタ管によるベートーヴェン、最初にリリースされた4番と5番のカップリング盤は、なにかヴァンスカらしくない凡庸な演奏で、レビューを書いては見たもののほとんど心に残るものはありませんでした。しかし、3枚目となるこの「第9」では、見違えるほどみずみずしいものを聴かせてくれています。やはり、新しいパートナーともなれば、お互いしっくりいくようになるには少し時間がかかるのかも知れません。
このシリーズに共通しているベーレンライター版を使用しているというクレジットは、ここでも見られます。しかし、その、従来版とは異なっている部分が最初に最もはっきり分かる形で出てくる第1楽章の81小節目では、従来版と同じ「ファ・シ♭」という木管の音型だったので、逆に驚いてしまいました。それ以後はきちんとデル・マーの仕事を尊重しているのに、なぜここだけ別の楽譜に従ったのかは、ちょっと謎です。
いきなり出鼻をくじかれた感はありますが、しかし、この楽章でのキビキビした動きには、とても惹き付けられるものがあります。特に、前のアルバムで感じた木管セクションのまとまりの良さは、ここでも健在でした。音色だけでなく、音のエンベロープが指揮者の指示を見事に反映したものになっている小気味よさは爽快そのものです。「重厚さ」などとは全く無縁のその軽やかな歩みは、この楽章の冗長さを全く感じさせないもの、このように、次々に現れるエピソードをこれほど楽しく味わっているうちにいつの間にか終わっていた、というような演奏には、なかなかお目にかかれないのではないでしょうか。
2楽章と3楽章は、意外とまとも、ただ、ここでも木管セクションのブレンドの妙味は光ります。特にクラリネットのからみ方には、新鮮な驚きが感じられます。
そして、ちょっとすごいのが、第4楽章です。冒頭の低弦によるレシタティーヴォは、まるであのノリントンやヘレヴェッヘのような恐ろしいスピード、ちゃんとビブラートの付いたモダン楽器でこれだけ軽々とここを扱った人は、ヴァンスカが初めてかも知れません。ただこの流れが、バリトンによる本物のレシタティーヴォが入って来たとたん断ち切られてしまうのは残念です。デイヴィースというこのバス・バリトンの、なんと重苦しいことでしょう。しかし、そんなソリストのミスマッチも、そのあとに出てくる合唱の素晴らしさによって帳消しにされてしまうのですから、これは嬉しいことです。この「ミネソタ・コラーレ」という団体、オーケストラの専属の合唱団なのでしょうが、そういったものによく見られる大味なところが全くなく、とても神経の行き届いた演奏を聴かせてくれています。
マーチ(このテノールソロも悲惨)が終わったあとの怒濤のオーケストラに続いて、これもベーレンライター版の特徴であるホルンの不規則なシンコペーションが出てきます。ここのヴァンスカの扱いがとても理にかなったもの、ちょっと不思議なこの部分の非合理性を、2回目以降をまるでエコーのように聴かせることによって、見事な解決を与えているのです。そして、そのホルンに導かれて登場する先ほどの合唱が、ここでもとても気の利いたアイディアで耳をそばだたせてくれますよ。「Freude, schöner」と勢いよく出たものが、2つ目のセンテンス、「Deine Zauber」という部分で、見事にキャラクターを変えて、しっとりと迫っているのですからね。
昔良くあった「人類の最大の遺産」みたいな大げさなところの全くない、あくまでベートーヴェンの音楽をきちんと伝えたいという強い意志を持った演奏、こういうものがごく普通に行われるような時代になったことを、ヴァンスカは示したかったのかも知れません。こういうものがわんさか出てくれば、「楽聖」ベートーヴェンのイメージもおのずと変わっていくことでしょう。
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by jurassic_oyaji | 2006-10-19 20:01 | オーケストラ | Comments(0)