おやぢの部屋2
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The Gershwin's Porgy & Bess

Alvy Powell(Bar)
Marquita Lister(Sop)
John Mauceri/
Nashville Symphony Orchestra & Chorus
DECCA/475 7877
(輸入盤)
ユニバーサル・ミュージック
/UCCD-1174/5(国内盤)


アルバムタイトルが「ガーシュインの『ポーギーとベス』」となっているのにご注目下さい。もちろん、この有名な「オペラ」は、ジョージ・ガーシュインが作ったものであるぐらい、誰でも知っていることです。それなのに、あえて「ガーシュインの」と謳ったところから、「今までのものとは違うぞ」ということをどうしてもアピールしたかった気持ちを汲んでやりたくなるじゃないですか。そう、これはまさに、今まであった「ポーギーとベス」とはひと味違ったものなのです。「ウニ味」は勘弁してほしいですが(それは「ポッキー」)。
この「オペラ」が、ニューヨーク、ブロードウェイのアルヴィン劇場で初演されたのは193510月半ばのことでした。その時には、もちろんオーケストレーションの終わったフルスコアは完成しており、ヴォーカル・スコアは出版までされていました。ブロードウェイのヒットメーカーであるガーシュインのことですから、このような早手回しの「露出」は、きちんとビジネスとして成り立っていたのでしょう。ところが、ニューヨークでの初演の前の試演がその少し前、9月30日にボストンで行われた時に、この作品の上演には演奏だけで3時間、2回の休憩を含めると3時間半もかかってしまうことが分かってしまいました。すでに、ブロードウェイの通例である8時半開演で1ヶ月の公演が予定されていましたから、これでは郊外から見に来るお客さんは終電に間に合わなくなってしまいます。そこで、ガーシュインたちは、出来上がっていたスコアにカットを施すことにしました。さらに、リハーサル中に気が付いた部分などを修正して、オーケストレーションにも手を入れられ(例えば、第2幕第1場のピクニックへ向かうシーンで、ステージ上にバンダの「チャールストン・バンド」を挿入)、オリジナルより35分ほど短くなったバージョンが出来上がりました。もちろん、これらの修正点は、指揮者や出演者の楽譜にその場で書き込まれ、その形でブロードウェイでの初演を迎えたわけです。
その後、このバージョンは作曲者の死の翌年、1938年の国内ツアーでも用いられたのですが、その後は忘れ去られてしまい、出版された楽譜そのままの形で演奏されるようになるのです。もちろん、この曲の最初の「オペラ」としての録音であるマゼール盤(1975/DECCA)や、後のラトル盤(1988/EMI)でも、この出版譜によるロングバージョンが使われており、CDでは3枚組になってしまっています。
今回のCDは2枚組、70年ぶりに「ショートバージョン」が蘇りました。これこそが、作曲者が初演の時に意図したであろう「ポーギー」の姿、思わず「ガーシュインの~」というタイトルを付けてしまった制作者の気持ちは良く分かります。
その、「修復」作業を行ったのは、ここで指揮をしているオペラやミュージカルには造詣の深い(マドンナ主演の映画版「エビータ」でも指揮をしています)ジョン・マウチェリ、この事実を最初に「発見」した音楽学者チャールズ・ハムなどの協力を得て、アメリカ各地の図書館などに保存されていた初演時の書き込みの入った楽譜を元に、「初演バージョン」を作り上げ、その成果をここに録音したのです。
オープニング直後から、それぞれのバージョンの違いが明らかになります。短いイントロに続いて、独立して「ジャスボ・ブラウンのブルース」というピースとしても知られているピアノソロが聞こえてきますが、これが三分の一ほどの長さしかありません。「ナマズ横町」でのダイアローグも、かなりカットされているのが分かるはずです。
クラシックの世界では、作曲家が最初に作った形を尊重する、というのが最近の一つのトレンドになっています。このマウチェリにしても、普段の上演ではまずカットが入る「トゥーランドット」のアルファーノによる補作部分を「完全な」形で録音したりしています。しかし、今回の「ポーギー」のプロジェクトは、それとは全く逆のベクトルが働いたケース。最初の楽譜ではなく、演奏の課程で手を入れられたものを再現してまで手に入れたかったのは、クラシックとしての「オペラ」ではなく、ショービズの世界の「ミュージカル」のテンションだったのではないでしょうか。もちろん、このCDには最初から最後までそんなブロードウェイの猥雑さが満ちあふれています。
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by jurassic_oyaji | 2006-10-21 21:20 | オペラ | Comments(0)