おやぢの部屋2
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MENDELSSOHN/Heimkehr aus der Fremde

Juriane Banse(Sop), Iris Vermillion(Alt)
Carsten Süß(Ten), Christian Gerhaher(Bas)
Helmuth Rilling/
Gächinger Kantorei
Radio-Sinfonieorchester Stuttgart des SWR
HÄNSSLER/CD 98.487



この前ご紹介した「ボストンからの叔父」に続いての、リリンクによるメンデルスゾーンの珍しいオペラのCDです。今回は作曲家が20歳の時の作品、前作で見られた「習作」の気配は、もはやすっかり姿を消して、メンデルスゾーン独自の語法が満ちあふれたものになっています。
「オペラ」とは言ったものの、彼が付けたカテゴリーは「Liederspiel」、つまり「歌」による芝居という形をとっています。そもそもは両親の銀婚式を祝うために自宅(!)で演奏されたものですから、「オペラ」ほど劇場的な要素は強くなく、「アリア」というほどのものではない「歌」を、セリフによってつなぐという形になっています。この録音も、コンサートホールでの演奏です。物語の内容も他愛のないもの、タイトルを訳せば「異国からの帰郷」となるのでしょうが、なぜかブックレットにある「英訳」では「息子と見知らぬ人」となっています。これは、内容まで踏み込んだ意訳となるのでしょう。軍隊に行ってなかなか帰ってこない村長の「息子」が、久しぶりに「異国」から「帰郷」したら、「見知らぬ人」が息子のフリをして村長の養女に近づいていた、というお話なのですから。セリフが入っても、1時間足らずで終わってしまうというのですから、退屈して眠くなってしまうこともないでしょう。
序曲で柔らかいヴァイオリンの音が聞こえてきたときには、正直ホッとした思いでした。少し編成の大きいオーケストラ(それでも10型)ということでリリンクが起用したのが、手兵バッハ・コレギウムではなくシュトゥットガルト放送交響楽団でしたから、音楽監督の下での「ノンビブラート」奏法を強いられているクセが出ていたらどうしようと思ったのですが、それは杞憂だったようです。いくらなんでもリリンクにはあの尖った音は似合いませんからね。ここで聴けるような自然なたたずまいの方が、やはりメンデルスゾーンにはふさわしいのではないか、そんな思いに駆られるリリンクのきめ細かい表情が素敵です。
それからの進行は、ソリストによる「歌」の間にセリフが入って経過していきます。歌詞の対訳はブックレットにあるのですが、なぜかセリフのテキストは全てカットされているので、これは不親切、ドイツ語に馴染みのある人以外には、細かい物語は分からないことでしょう。しかし、それぞれの配役のキャラクターがよく現れた「歌」は、どれも素敵なものばかりですから、それらを楽しむだけでも十分な喜びは得られるはずですよ。中でも、みんなを騙す行商人のカウツに付けられた音楽は、いかにもメンデルスゾーンらしい軽やかなものですから、すぐ好きになれるのでは。これを歌っているゲルハーエルが、見事にその味わいを出しています。本物の息子、ヘルマンが甘いセレナーデを歌っているのを邪魔するというシーンも、笑いを誘います。ただ、そのヘルマン役のジュースが、名前ほどの甘さ(「ジュース」だから甘いのではなく、ドイツ語のsüßですから、念のため)を持たない、ちょっと固い声なのが惜しまれます。
バンゼが歌っている、養女リズベートの「歌」も、民謡調のシンプルなメロディーが素敵です。オブリガートのチェロとともに、こちらは本物の「甘さ」を披露してくれています。
最後になって、合唱が登場します。村の人々がお祝いの気持ちを表しているものですが、これが有名な「おおひばり」とよく似たテイストの、とても爽やかな曲です。これも演奏ともども、文句なしに楽しめます。また一つ、聴いて楽しめるレパートリーが増えた思い、リリンクの仕事は常に私たちを安らかにしてくれます。まさに渇きを癒すものなのかも(それは「ドリンク」)。
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by jurassic_oyaji | 2006-10-31 19:51 | オペラ | Comments(0)