おやぢの部屋2
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STRAVINSKY/Le Sacre du printemps



Esa-Pekka Salonen/
Los Angeles Philharmonic
DG/00289 477 6198(
輸入盤 hybrid SACD)
ユニバーサル・ミュージック/UCCG-1334(国内盤 CD)


ロスアンジェルス・フィルの本拠地として2003年に完成した「ウォルト・ディズニー・コンサートホール」のことは、こちらでご紹介してあります。しかし、そのCDで演奏されていたこのホールのこけら落としのためにサロネンが作った曲は、実はその場所で録音されたものではありませんでした(オーケストラも違います)。ですから、実際にロスアンジェルス・フィルが音楽監督のサロネンとこのホールで演奏した音というのは、今回の、2006年の1月に録音されたCDで初めて耳にすることが出来るということになります。
このホールが完成した直後にここで定期演奏会を指揮をなさったという、当時のロスアンジェルス・フィルのアシスタント・コンダクターの篠崎靖男さんは、その時の様子を「本当に素晴らしいホールで、ピアニシモでもはっきりディテールが聞こえますし、音の混ざり具合も全体的な音量も豊かです」とおっしゃっていました。今回のDGのスタッフによる録音で、そんな、ロスの新しい観光名所ともなっているホールの外観だけでなく、その音響の素晴らしさも各方面で絶賛されている会場の響きを、味わうことは出来るのでしょうか。プログラムは、タイトルの「春の祭典」の他にムソルグスキーの「はげ山の一夜」とバルトークの「マンダリン」という、多彩な音響が楽しめるものばかりですから、これは楽しみです。部屋もきれいになりますし(それは「マジックリン」)。
「はげ山」は、しかし、リムスキー・コルサコフによる「派手で洗練された」オーケストレーションと比べると、「地味」とか「粗野」と言われているオリジナル・バージョンで演奏されています。ところが、この録音からは、なぜその様なことが言われるのか分からないほどの、見事に煌びやかなサウンドが聞こえてきたではありませんか。弦楽器はあくまで澄みきった音ですし、管楽器も驚くほど柔らかい響きです。それらがホールの中で溶け合って、えもいわれぬ爽やかな雰囲気を醸し出しています。これが、このホールの力なのでしょう。確かに評判の素晴らしい音響が、録音からもうかがえました。その様な極上の響きの中で、サロネンはかなり細やかな表情を与えようとしていますから、もはやこの曲はロシアの田舎臭い音楽ではなく、とてもみずみずしく、しかも贅沢なものに仕上がりました。時折聞こえてくるピッコロの、なんと上品な音色なのでしょう。それは、いたずらに刺激を与えるものではなく、全体の音色の外側を軽くなぞって、艶やかな味わいを加えるものとなっています。
2曲目の「マンダリン」も、よくあるおどろおどろしいテイストなど全くない、風通しのよいものです。ここでは、各々のフレーズにことさら思い入れを込めないで、バルトークのスコアにそのまま語らせる道をとったかのように、余計な力が入らない心地よさが感じられます。途中で聞こえてくるオルガンの音は、このホールご自慢の、それこそディズニーの世界に出てくるような外観を持つ楽器から聞こえてくるものなのでしょう。これも、オーケストラの一部であるかのような、一体感を伴った響きの中にあります。

そして、「春の祭典」です。これも、例えばゲルギエフあたりとは正反対のテイストに支配されたスマートな肌触りです。もっと言えば、ディズニーアニメのサントラでストコフスキーが見せた原色感からも、はるかに距離のある世界です。力でねじ伏せるのではなく、隠し持った鋭利なナイフで素早く仕留める、そんな趣も、時たま見ることは出来ないでしょうか。
多少クレージーな感がなくもないフランク・ゲーリーの建物の中にあって、豊田泰久の音響設計は、そんなクレバーな仕掛けも難なく実現させてくれるホールを作り上げていました。名前から与えられる印象よりもはるかにまっとうなこの音響、これを与えられたとき、演奏家はさらなるアイディアを求めて行くに違いありません。ホールが音楽を変えていく、まさにホールも楽器の一部であることをまざまざと示してくれる、これは格好のサンプルです。
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by jurassic_oyaji | 2006-11-03 20:46 | オーケストラ | Comments(0)