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BACH/Partita for Unaccompanied Ukulele





John King(Ukulele)
NALU/011998



「ウクレレ」と言えば、「ハワイアン」ですよね。いかにも南国のリゾートっぽいそのダルなカッティングは、「フラダンス」とか「腰ミノ」といった、およそシリアスさからはほど遠い無責任なたたずまいを醸し出すものです。最近聴いた、リコーダーとウクレレのアンサンブルによる「(やる気のない)ダース・ベイダーのテーマ」なども、その「無責任さ」を最初から狙ったものでした。あの勇壮なマーチがいともノーテンキな脱力系で演奏されるとき、私たちはそこにウクレレの持つユーモラスな力を感じずにはいられません。もちろん、「タフア・フアイ」という名曲に乗せて漫談を演じた牧伸二のアイディアは、この楽器のそんなキャラクターを存分に生かしたものであったことは、言うまでもありません。
そんな楽器でバッハを演奏したものがあるということを、2、3のブログで知って、入手したのがこのCDです。タイトルが「無伴奏ウクレレパルティータ」、ブーゲンビレアをバックにしたこのジャケットからは、やはり常夏の島のイメージしか湧いてきません。いったいどんなのどかなバッハが聞こえてくることでしょう。
しかし、1曲目の無伴奏チェロ組曲第1番の「プレリュード」が、まるでハープのような優雅な音で聞こえてきたときには、耳を疑ってしまいました。これが本当に、あのウクレレから出てきた音なのでしょうか。一つ一つの弦の音は、とても澄みきってふくよかです。しかも、それぞれの音に深く豊かな響きが伴っています。音程も、あんな小さな楽器の小さなフレットを扱っているとは思えないほど、正確なものです。ヘタをしたら、本物のチェロを少しいい加減に弾いている演奏などよりは、よほどいい音程かも知れません。そして、そのテクニックの見事なこと。こんな曲を弾くにはかなりの制約があるはずなのに、そんなことは全く感じさせない、まさにヴィルトゥオーゾの音楽が、そこには軽やかに流れていたのです。
ライナーを読んでみると、「ハープのような音」がしている訳が分かりました。なんでも、ここでは「カンパネラ・スタイル」というものが使われているというのです。これは、メロディを弾くときに、隣り合った音を常に別の弦で弾くという奏法、そうすることによって、フレットだけを移動するときのように前の音の響きがなくなってしまうことはなく、双方の音に豊かな響きが残るという、まさにハープのような音が可能になってくるのです。

そうなってくると、例えばトラック6に入っている無伴奏チェロ組曲第4番のブーレのように、最初のテーマで音が5つつながっている場合(楽譜参照)、弦が4本しかないウクレレではこの奏法を使おうとしてもちょっと難しくなってしまうのではないでしょうか。しかし、ご覧下さい。ネットで探したこの演奏家、ジョン・キングの写真を見てみると、彼はなんと「5弦」の楽器を使っていますね。この写真の背景を飾っているのはここで演奏されている「無伴奏ヴァイオリンパルティータ第3番」の自筆稿ですから、このアルバムの曲がこの楽器で演奏されたことは明白です。これで、疑問は解けました。しかし、そもそも最初からこの写真をジャケットに使っていれば、あれこれ思いを巡らさずとも、これほどきちんとバッハを演奏しているのはすぐ分かったことでしょうに。
その「パルティータ」も、素晴らしい演奏です。そもそもこの曲はリュートのために編曲されたバージョン(BWV1006a)があるぐらいですから、ウクレレにも良く馴染みます。後にカンタータ29番の冒頭の華々しいシンフォニアにオルガンによって演奏されることになるプレリュードの細かいパッセージも難なく弾きこなすキングのテクニックには、いささかのほころびもありませんし、有名なガヴォットあたりでは、ウクレレのキャラクターが他のどの楽器よりも見事にマッチしているのではないでしょうか。
この曲は、ウクレレで弾きやすいようにでしょうか、ホ長調のものがニ長調に移調されています。そういえば、ト長調のチェロ組曲第1番もニ長調でしたね。そして、「平均律クラヴィーア曲集」の第1番、ハ長調のプレリュードも、同じくニ長調になっています。ところが、そのキーだと音域的に無理があるのか「ドミソドミ(ここではレファ♯ラレファ♯)」とまっすぐ上へ昇るべき音型が、「ソ」からオクターブ下に折れ曲がってしまっています。ここあたりが、唯一ウクレレの弱点が出てしまったところでしょうか。
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by jurassic_oyaji | 2006-11-18 07:48 | ヴァイオリン | Comments(0)