おやぢの部屋2
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Copying Beethoven
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 「敬愛なるベートーヴェン」を見てきました。なかなか評判がよい上質の音楽映画だということだというので、ぜひみたいと思っていたもの、しかし、劇場にまで行ってすぐ見たいと思った直接の要因は、「Copying Beethoven」という原題でした。「ベートーヴェンをコピーして」、これは一体どういう状況を表しているのでしょう。かなりフィクションの入った作品だということですから、もしかしたら「第9」を作ったのはベートーヴェン本人をコピーした別の人間だった、などというミステリーかもしれませんし。
 「コピー」の謎は、すぐに解けました。これは楽譜の「写譜」のことだったのですね。アンナという音大生が、楽譜出版社の「ベートーヴェンの新作交響曲の写譜師を求む」という広告に応じて面接に訪れるところから、物語は始まるのです。もちろん、ベートーヴェンが女性の写譜師を雇ったなどという史実はありませんから、この設定そのものがフィクションになるわけですが、その中にいくらかの事実を交えつつ、物語は進行していきます。クライマックスである「第9」の初演のシーンで、耳の聞こえないベートーヴェンのために、アンナがオーケストラの陰で指揮をする、というのも、確かに実際の初演の時には「副指揮者」が2人付いたという事実に基づいたものでしょうし、曲が終わっての拍手にも気付かないベートーヴェンを聴衆の方にアンナが振り向かせるというのも、史実(実際はソプラノ歌手ですが)が元ネタになっているのでしょう。
 この映画と似たようなものを見たことがあったな、と思ったのも当然、これはあの「アマデウス」に非常によく似た体裁を取ったものだったのです。あちらもストーリーそのものは全くのフィクション、そこに本当のことを散りばめてリアリティを出すという手法を取っていました。その「本当のこと」の最たるものがモーツァルトその人の描写だったわけですね。これを見たおかげで今まで抱いていた高潔なイメージが損なわれてがっかりした人がたくさんいたことは想像に難くありません。「ベートーヴェン」でも、彼自身の生々しいまでの人間像の持つリアリティには圧倒されてしまいます。エド・ハリスが、そんな「粗野」さを思い切り派手に演じていますし、それと裏腹の「自分は作曲するために神に選ばれた」という高慢さもよく伝わってきます。髪の毛があるとないとでは、キャラクターが全く変わってしまうのですね。病床にあって、アンナに口述筆記をさせるというのも、「アマデウス」そのものです。
 音楽の使い方は「のだめ」の比ではありません。アンナが最初にベートーヴェンの元にやってきたときに写譜を見せて、「Bマイナーに直した」という部分のちょっと前まで、その前のシーンの時に流れていたのに気付いた方も多いはずです(もっとも、これはBメージャーからBマイナーに変わらないことには、次のDメージャーにつながりませんからあまり効果のあるエピソードではありませんが)。
 もちろん、突っ込みどころは山ほどあります。サントラはユニバーサルの音源が使われていますから、コンセルトヘボウなのでしょうが、「初演」の模様だったら「18世紀オーケストラ」とか「レヴォリューショネル・エ・ロマンティーク」のものだって同じレーベルにあるのに、と思ってしまいます。1楽章からコントラファゴットが構えているのは変ですし、そもそも1824年にはチェロのエンドピンなどなかったはず。そんな些細なことではなくても、「第9」の歌詞を字幕で出さなかったのは完全な失態です。「星の上に神が住んでいるに違いない」という部分でなぜあれほどの恍惚感に浸れるのか、普通の日本人には決して分からないはずです。
 帰りの車の中で聴いたラジオで、全く偶然にこの映画を紹介していました。「自立する女性の姿」を描いているんですって。色んな見方があるものです。
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by jurassic_oyaji | 2006-12-22 21:49 | 禁断 | Comments(1)
Commented by torajimi at 2006-12-23 23:34 x
通りがかりのコメントで失礼致します。
私もこの映画を観に行きました。音楽理論はまったくの門外漢ですが
今まであまりにも有名すぎる第四楽章の合唱が原因で食わず嫌いしていた
「第9」の魅力に圧倒されて、演奏シーンでは涙が出ました。
合唱は第一楽章から聴いてこその感情の極みなのだと思いました。
さて、原題のCopying Beethovenですが、写譜の他にもう一つ
「ベートーベンを真似している」という意味があると思います。
コピストの恋人が作った(あの鉄筋量のやたら多い)橋の模型を
ベートーヴェンが破壊したことに憤慨し、ベートーヴェンの部屋を
去ろうとするコピストに、彼女が作った曲を演奏しながら
「いい曲じゃないか、ただ私を真似しているのが欠点だが
( you're copying me )」と言った台詞です。
その他にも「君は私になりたがっている(You want to be me)」とか
最後の口述写譜のシーンでの「これで君は私から解放される
(And now, you're free)」などの複線にかかってくる
ダブルミーニングになっていて、コピストの気持ちを思うと
なんがか切なくなってきます…。