おやぢの部屋2
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MOZART/Le Nozze di Figaro
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Ildebrando D'Arcangelo(Figaro)
Anna Netrebko(Susanna)
Bo Skovhus(Conte)
Dorothea Röschmann(Contessa)
Christine Schäfer(Cherubino)
Claus Guth(Dir)
Nikolaus Harnoncourt/
Wiener Philharmoniker
DG/00440 073 4245(DVD)



あけましておめでとうございます。モーツァルト・イヤーも終わり、新しい年の始まりです。とは言っても昨年の「M22」のレビューはまだまだ続きます。中でも最大の目玉はこの「フィガロ」だったでしょうか。ダルカンジェロ、ネトレプコ、スコウフス、レシュマン、シェーファーという今をときめく大スターたちに、指揮がアーノンクールとくれば、もうそれだけで成功間違いなしのプロダクション、今回改装されて「Haus für Mozart」として生まれ変わったかつての祝祭小劇場のこけら落としに、これほど相応しいものもなかったはずです。
映像では最初にこの新装なったホールの客席が映し出されますが、バルコニーこそ付いているものの、ほぼシューボックスの、ちょっとオペラハウスらしからぬ形をしているのが分かります。そのせいかどうか、オーケストラからも歌手からも、かなり響きの乗った音が聞こえてきます。ステージでは天井から堂々とマイクを垂らしていますから、歌手の声の生々しいこと。普通のライブ録音ではなかなか味わえないようなオンマイクのサウンドが刺激的です。
さらに刺激的なのが、映像のユニークさです。バイロイトの「指環」の映像化で名をあげた映像ディレクター、ブライアン・ラージは、なんとステージの天井にカメラを設置して、上の方から眺めるアングルという、客席からは絶対に見ることの出来ない視線を獲得してしまったのです。言ってみれば、五反田にある劇団四季のキャッツシアターの「ジェリクルギャラリー」のようなものですね。この「フィガロ」のセットは、階段と踊り場が設置されていて、キャストはそこを上り下りして演技をするようになっているのですが、それを「上から」眺めることでその演出の真意が手に取るようによく分かるという、テレビ桟敷(死語!)ならではの、劇場のお客さん以上の楽しみが味わえるのです。
そんな、A、V両面で力の入った中で繰り広げられるクラウス・グートの演出は、それぞれのキャストに人間としての極限までの感情を吐き出させるというヘビーなものでした。その感情のベースはもちろん男と女の間の感情、したがって、そこからは殆ど醜さの一歩手前の、どぎついまでのエロティシズムが押し寄せてくることになります。原作にはないキャラ、キューピッドを登場させ、まるで彼に操られるように恋心を抱いている人間同士が結びつかされる様は、息苦しいほどやりきれないものに見えます。いみじくもそのキューピッドが壁の上に描き出す「相姦図」いや、「相関図」のように、そこではあらゆるキャストが一人ならずとの関係を持っているというドロドロした様相が、しつこいほどの濃密さで示されるのです。
そんな重苦しい印象をさらに助けたのが、アーノンクールです。序曲からしてこの指揮者の面目躍如たる思い入れたっぷりの濃厚な演奏、それは、これからの3時間が、決して気楽に過ごせる時間ではないことを高らかに宣言するものだったのですから。それに続くアリアにしてもアンサンブルにしても、歌手たちの集中力といったらハンパではありません。そこには指揮者の気迫が乗り移ったかのようなとてつもなく完成度の高い音楽がありました。問題は、それほど立派な音楽でありながら、殆ど「美しさ」が感じられない、という点です。モーツァルトが書いた音楽からは、もっともっと美しいものがきこえてくるはずだ、と、ついに最後まで問い続けなければならなかったのは、なぜでしょう。このプロダクション、今年はハーディングが指揮をするそうですから、また別の魅力が期待できるのでは。
このオールスター・キャスト、伯爵夫婦のレシュマンやスコウフスのようにめいっぱい力むことをせず、一見軽くさばいていたかのようなスザンナのネトレプコが最も光っていたのは、ちょっと意外なところです。それは、彼女が天性の「美」に対する嗅覚で、指揮者の世界を退けていたせいなのかもしれません。その点ケルビーノのシェーファーは、どっぷりその世界につかった上で、言いようのないエロスを発散していて、これはもうたまらないほど魅了されてしまいました。
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by jurassic_oyaji | 2007-01-01 18:54 | オペラ | Comments(0)