おやぢの部屋2
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MOZART/Il Re Pastore
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Kresimir Spicer(Alessandro)
Annette Dasch(Aminta)
Marlis Petersen(Elisa)
Arpiné Rahdjian(Tamiri)
Andreas Karasiak(Agenore)
Thomas Hengelbrock/
Balthasar-Neumann-Ensemble
DG/00440 073 4225(DVD)



好調に続く「M22」のレビュー、今回はこんな時でもなければまず見ることの出来ない「牧人の王(羊飼いの王様)」です。競走馬の話ではありません(それは「マキバオー」)。モーツァルトが19歳の時の作品、オリジナルタイトルには「オペラ」ではなく「セレナータ」という表記がある通り、メタスタージオの有名な台本(ハッセやグルックも取り上げています)による音楽劇ではありますが、初演はステージではなくコンサート形式で行われました。
題材としてはもろオペラ・セリア。アレキサンダー大王(アレッサンドロ)がシドンの地を攻略した時に先王は自害したために、その後継者として探し出されたのが、今は羊飼いとして恋人のエリーザと平和に暮らしているアミンタでした。先王の家臣で、今ではアレッサンドロに仕えているアジェノーレからその事を告げられ、アミンタは「王になっても君のことは忘れないよ」とエリーザを思う心は変わらないことを伝えて、王になる決心をします。そんなことは知らないアレッサンドロは、先王の娘タミーリを不憫に思っており、彼女をアミンタと結婚させて幸せになってもらおうと考えます。しかし、実はタミーリはアジェノーレと恋仲だったこともやはり知りません。結婚式が執り行われる最中に乱入してきたのはエリーザ、アレッサンドロにアミンタを返してくれと迫ります。タミーリもアジェノーレとの仲を告白、事情を知ったアレッサンドロはそれぞれのカップルの結婚を許す、というお話です(分かりました?)。
ここで演出を担当しているのが、指揮者のヘンゲルブロックです。以前からその方面への関心があったということですが、彼の作り上げたプランはなかなか見応えのあるものでした。会場がザルツブルク大学のホールというところなのですが、映像を見る限り「講堂」といった感じの規模、そんな環境を逆手にとったのか、基本は「劇中劇」という設定になっています。仲良しのグループが集まって、ひとつお芝居でもやってみようか、というノリ、それぞれにカードを引いて、役を振り分け、カーテンを引いた小さなステージで芝居が始まる、といった趣です。カーテンが開いて始まったものは、ステレオタイプの衣装と仕草から成り立つ、まるで学芸会のようなチープなものでした。しかし、よく観察しているうちに、これは現在隆盛を極めている「バロック・オペラ」のカリカチュアであることに気付きます。良くあるパントマイムのような「振り」は、ちょっと行き過ぎた感もなくはないそんな最近の演出に対する、ヘンゲルブロックなりの揶揄の姿勢に見えてしょうがないのです。他の出演者が、ステージの「外」から、色々指示を出しているのも面白いアイディア。
ところが、そのうち「外」でもきちんと話が進行するようになっていきます。もちろん、その頃には「中」でやるべき事を「外」でやられても違和感のないように、観客は慣らされているはずですから、これも演出の意図だと理解できるはずです。もちろん、肝心なところは「中」。その典型が、いやいや結婚させられようという2人の結婚衣装でしょう。それぞれ、水車のような形をした蒸気船のパドルを前に取り付けられているのです。2人が自虐的にそれを回すことによって「他人の意志で動く」ということを象徴しているのでしょう。そんな2人の気持ちも知らずに、とうとうと歌いまくるアレッサンドロの姿は愉快そのものです。
さらに、登場人物が「役」ではないところでちょっとしたさや当て劇を演じるというスリリングな場面も出てきて、この演出が「3層」に入り組んだものであることが分かります。それをサラッと見せられるヘンゲルブロックは、この分野でもただ者ではありません。
出演者の中では、何と言ってもアミンタ役のダッシュが飛び抜けています。1幕のアリアのコロラトゥーラは恐ろしいほど完璧、その幕切れ、エリーザ役のペーターゼンとのデュエットも2人の息が見事に合っていてとても美しいものでした。そして、2幕、ヴァイオリンのオブリガートが付くしっとりとしたアリアの見事なこと。肝心のアレッサンドロ役のシュピチュルがちょっと頼りないのを除けば、他の人も満足のいく出来でした。
オーケストラはもちろんオリジナル楽器。フォルテピアノによるイマジネーション豊かなセッコの伴奏と相まって、久しぶりに爽やかなモーツァルトを聴いた気分です。
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by jurassic_oyaji | 2007-01-25 20:07 | オペラ | Comments(0)