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これで納得!よくわかる音楽用語のはなし
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関 孝弘/ラーゴ・マリアンジェラ共著
全音楽譜出版社
(ISBN4-11-880227-9)


音楽用語としてのイタリア語は、もはや音楽に関係のない人でも日常生活に使うほど浸透しています。なんたって「のだめカンタービレ」ですからね。今の日本には、「カンタービレ」というイタリア語を知らない人などいないのではないでしょうか。「ヴェローチェ」という名前のコーヒー屋さんもありますし。アイスも売ってます(それは「ジェラート」)。
ですから、例えばイタリア旅行に行ったとすると、この音楽用語を使えばある程度はコミュニケーションが図れるともいわれています。タクシーに乗った時に「急いでくれ!」という意志を伝えたい時には「アレグロ!」とかね。「アレグロ」と言えば音楽用語の中でも代表的な速度をあらわす言い方で、「速く」という意味を持っていたはずですから、これを使えば運転手さんは間違いなく急いでくれるはずです。ところが、いくら「アレグロ!」と連呼したところで、運転手さんは一向に車の速度を上げる気配はありません。それもそのはず、イタリア人に「アレグロAllegro」と言っても「急いでくれ」という意味は全く伝わらないのです。なぜならこの言葉には「陽気に」とか「楽しく」という意味はあっても「速く」という意味はぜんぜんないのですから。
つまり、「音楽用語」として使われている「イタリア語」には、本来その言葉が持っていた意味とは全く異なる「日本語」が置き換えられていることがあるのです。その事を、実に分かりやすく語ってくれるのがこの本です。著者は長くイタリアで生活してきたピアニストの関孝弘さんと、彼のイタリア人の奥さんラーゴ・マリアンジェラさん、「イタリア語」と「音楽用語」と、そして「日本語」の3者のネイティヴな使い手として生きてこられたお二人の指摘には、心から納得できるだけの重みがあります。
そもそも音楽用語にイタリア語が用いられているというのは、石井宏さんの「反音楽史」をひもとくまでもなく、「クラシック音楽」の中心地はイタリアだったからです。五線紙に書かれた音符だけでは表せない細かいニュアンスを伝えるために何らかのメッセージを付け加えようと思ったら、イタリア語で書くしかなかったのですよ。「ここは楽しい感じで演奏して欲しい」と思った作曲家はそこに「Allegro」と書きました。「楽しい感じ」だったらテンポは早いほうがいいはずです。そこで、結果的に「Allegro」と書かれていれば早めに演奏するようになったのでしょう。そう、音楽用語の中でも「速度標語」と呼ばれているものの殆どは、本来は単に早さだけを表すものではなく、曲の表情を伝えるものだったのです。それが「結果」として速度を指定することになっただけのことなのです。
そんな、速度標語の持つ細かいニュアンスを破壊してしまった張本人のことも、この本の中では述べられています。その人の名はヨハン・ネーポムク・メルツェル、そう、あの「メトロノーム」の発明者です。彼は一定のビートを産み出す機械を発明(正確には改良)してその特許を取るのですが、もちろんその機械自体は非常に役に立つものとして音楽家にとってなくてはならないものとなりました。しかし、ご覧下さい。手元にあったゼンマイ式とクォーツ式の2種類のメトロノームには、1分間のビート数と一緒に「速度標語」が書かれていますね。それによると「アレグロ」は120から168、それよりも速くなると「プレスト」という言葉を使わなければいけません。
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これが、メルツェルが犯した最大の過ちでした。音楽「後進国」であるドイツ人ゆえの悲しさでしょうか、イタリア人が奥深い意味を込めて書いた言葉を、少なくとも「速度」に関しては完璧に数字に置き換えることが出来ると考えてしまったのでしょう。そして、このように速度標語を数字と対応させてきっちり定義してしまったのです(と、この本には書かれています)。その結果、「Allegro」からは「楽しく」という意味は失われ、単に「120から168」という「速度」しか残らなくなってしまいました。そんなドイツ人のメソッドを盲目的に受け入れてきた日本人の間では「Allegro=速く」と受け止められたのも、至極当然のことです。
例えば「スタッカート」には「離れる」という意味しかなく、「音を短くする」というのは単にその結果でしかないと知っている人は、「達人」として、ある意味尊敬の念を持って迎えられたものです。しかし、この本を読みさえすれば、誰でもそんな「達人」になれますよ。
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by jurassic_oyaji | 2007-02-03 07:06 | 書籍 | Comments(0)