おやぢの部屋2
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MOZART/WENT/Opera for Flute and String Trio
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Mozart Ensemble of the Vienna Volksoper
NIMBUS/NI 5805



CDの創生期、世界中を数えてもCDを作ることが出来る場所は4、5ヵ所、しかも、そのうちの1つがドイツのハノーヴァーにあるポリグラム(今ではそんな名前もありません)だった以外は、全て日本のメーカーの工場だったという時代の1984年に、CDの可能性を信じて自らCD製造のための工場を造ってしまったレーベルがありました。それがイギリスのNIMBUSです。ここは、ヴィクトリア朝の素敵な古いお屋敷を改造したものを、録音スタジオとして持っていました。つまり、録音からCD製造まで全てを自らの手で行うことが出来たという、何ともこだわりの強いマイナー・レーベルだったのです。
しかし、2001年に、突然この会社の倒産のニュースが伝えられました。ここで働いていた父さんは失業してしまったのです。ちょうどアダム・フィッシャーの指揮によるハイドンの交響曲全集が進行していたところでしたから、その成り行きが注目されたのですが、結局あのBRILLIANTが権利を買い取って、格安の値段の「全集」がリリースされたのは、ご存じの方も多いことでしょう。
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そんなNIMBUSが、いつの間にかまた新譜を出すようになっていました。「Wyastone Estate」という会社の一部門として再スタートしたようですね。パッケージのデザインも、そして音のポリシーも全く変わっていなかったのが、嬉しいところです。
さて、モーツァルトの時代には、オペラの序曲やアリアなどを管楽器の合奏に編曲した「ハルモニー・ムジーク」というものが多く作られていました。ウィーン宮廷の管楽合奏団でコール・アングレを吹いていたボヘミアの音楽家ヤン(ヨハン)・ヴェントという人は、モーツァルトのオペラだけではなく、他の作曲家のものも数多くそんな「管楽器バンド」のために編曲し、人気を博していました。著作権などという概念のなかった時代ですから、これは先に作ったものの勝ち、そんな状況はモーツァルトの1782年の手紙にも「早くオペラを管楽器のために編曲しないと、他の人に先を越されて、ぼくの代わりに儲けられてしまいます」と記されています。
その様なもっぱら屋外で演奏されるための編曲以外に、ヴェントはフルートと弦楽器3丁という「フルート四重奏」の編成でオペラを編曲していたことが、ごく最近分かりました。その楽譜を「発見」したウィーン・フォルクスオーパーのフルート奏者、ハンスゲオルク・シュマイザーが1996年にそれを演奏するために同僚達と「モーツァルト・アンサンブル」を結成、NIMBUSに録音すると同時に楽譜も出版したために、この、ちょっとエレガントなセンスの編曲が日の目を見ることになったのです。
その「倒産前」にリリースされた「第1集」には、「魔笛」、「ドン・ジョヴァンニ」、「後宮」が収録されていましたが、今回の新録音では「ティートの慈悲」、「コジ・ファン・トゥッテ」と「フィガロの結婚」が演奏されています。他の編曲ものでも滅多に登場しない「ティート」が含まれている、というあたりが、当時のこの作品の人気を示すところなのでしょうか。ただ、今のところ、出版楽譜には「ティート」が含まれていないのが、ちょっと気になります。
先ほどの「ハルモニー・ムジーク」には、基本的にフルートは含まれていないことでも分かるように、この楽器はそもそも屋外で演奏するようなものではありませんでした。ですから、この編成はもっぱら部屋の中でしっとりと味わうという状況を想定して作られたものなのでしょう。ここには「ハルモニー」にたまに見られるようなちょっと「粗野」な一面は全くありません。管楽器だけの場合は全く曲のキャラクターが変わってしまって、単なるBGMに成り下がっているという印象は拭いがたいものがあるのですが、この編成では単にサイズダウンしただけ、音楽そのものは何も変わっていない、という印象に変わります。やはりケルビーノの「Voi que sapete」にはピチカートが入らないことには。
フルートのシュマイザー、師匠のシュルツ譲りのちょっと低めの音程は気になるものの、強引にアンサンブルをリードせずに弦楽器と見事に溶け合う心地よさが聴きものです。何よりも、全てのメンバーが元のオペラをよく知っていることが良く分かる、歌い方、そして隠れ方が見事です。
「コジ」の「Un'aura amorosa」のような、ぜひ聴きたい曲が抜けているのはヴェントのせい?
by jurassic_oyaji | 2007-03-26 20:38 | フルート | Comments(0)