Ana Quintans(Sop)
Peter Harvey(Bar)
Michel Corboz/
Ensemble Vocal de Lausanne
Sinfonia Varsovia
MIRARE/MIR 028
2005年に来日した時に東京のオペラシティで録音された
CD(AVEX)の記憶もまだ消えていないというのに、またまたコルボがフォーレの「レクイエム」を新しく録音してくれました。合唱は前回と同じローザンヌ・ヴォーカル・アンサンブルですが、オーケストラがシンフォニア・ヴァルソヴィアに変わっています。実はこのメンバーは今年の「熱狂の日」、そう、あの屋台も出てお祭り騒ぎとなる音楽祭(そんなの
やだい、と顔をしかめるへそ曲がりは、もう居ません)に出演するために5月に来日するそうですが、その顔見せの意味合いも、このCDにはあるのでしょうね。もう剥がしてしまいましたが、ジャケットには「ラ・フォル・ジュルネ」のロゴシールがしっかり貼ってありました。初めて見るこの「
MIRARE」というレーベルも、本拠地はフランスのナントですからこの音楽祭に何らかの関係があるのかもしれませんね。
AVEX盤は「レクイエム」1曲だけという超経済的な(もちろんこれは皮肉です)コンテンツでしたが、こちらには「熱狂」でのレパートリーでもある、メサジェとの共作の「ヴィレルヴィルの漁師たちのためのミサ曲」と、モテットが3曲カップリングされていますから、「商品」としては「良心的」と言えるのかもしれません。しかし、たった1年後に(正確なデータは表示されていませんが、おそらく
2006年の録音)同じ曲を録音するという神経には、ちょっとムカつきます。
というのも、東京ライブではちょっと詰めが甘いのではないか、と感じた部分が、ここではもっと練られたものに仕上がっているように思えたからなのです。それは「
Libera me」での7分
48秒という異常とも言える東京盤のテンポ設定です。それは遅いテンポで表現するという必然性の乏しい、単に情緒が上滑りしてコントロールがきかなかったという、はっきり言ってライブでの「事故」としか思えないようなものだったのです。しかし、今回の録音では6分
21秒とかなり引き締まったものとなって、その「遅さ」が、実はしっかりとした意志に基づいたものであることがはっきり伝わってくる演奏に、確実にバージョン・アップしていました。後半、シフトダウンしてじっくり迫ってくる合唱、好き嫌いはともかく、これでしたらコルボが描いた設計図が見事に再現されている事が感じられます。東京ではまだリハーサルの段階だったものを、収録時間は少ないは、値段は高いわというちょっとした「欠陥商品」として買わされてしまった「消費者」の立場は、微妙です。
それとは逆に、オーケストラが変わった事によってちょっとした不満が生まれる部分もあります。シンフォニア・ヴァルソヴィアは、東京でのローザンヌのアンサンブルと比べると、かなり自発的な音楽を仕掛けてくれています。それはそれで魅力的なのですが、この曲の中で最も美しい部分であるはずの「
Agnus Dei」から「
Lux aeterna」に移る部分のエンハーモニック転調で、合唱の和声が変わる前にハープが盛大なアルペジオで、先の和音を聴かせてしまっているのです。ここでのハープのパートは、最近コルボが使うようになった「ネクトゥー・ドラージュ版」にしか入っていませんが、指定はアルペジオではなくアコード、もっと慎み深く弾いて合唱を立てて欲しかったところです。
その版の問題ですが、確かにオケのパートはきちんと演奏しているのに合唱パートが今までの第3稿のものをそのまま使っているというのも、不思議なところです。今回はただ「
version 1893」と表記されているだけ、東京盤も「第2稿に『準拠』」という言い方でしたから、単に「参考にした」という程度のノリだったのでしょうか。そういういい加減さが、演奏に反映されていなければいいのですが。