おやぢの部屋2
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MOZART/Idomeneo
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Ramón Vargas(Idomeneo)
Magdarena Kozená(Idamante)
Ekterina Siurina(Ilia)
Anja Harteros(Elettra)
Arbace(Jeffrey Francis)
Ursel and Karl-Ernst Herrmann(Dir)
Roger Norrington/
Salzburger Bachchor
Camerata Salzburg
DECCA/00440 074 3169(DVD)



今でこそ最後の作品「ティートの慈悲」が異常とも言える脚光を浴びていますが、少し前まではこのモーツァルトが25歳の時の作品「クレタの王イドメネオ」が彼の「オペラ・セリア」の中では最も良く聴かれているものだったのではないでしょうか。BSなどで幾度となく放映されたパヴァロッティ、ベーレンスなどの豪華キャストを擁する1982年のMETにおけるポネルのプロダクションは、この作品の魅力を広く知らしめたものだったはずです。「オペラ・セリア」とは言っても、いたずらに技巧的なパッセージをひけらかすという場面は殆どなく、「ダ・ポンテ・オペラ」にも通じるようなモーツァルトの姿が垣間見られることを、それを見た時に知ったのです。
今回のヘルマン夫妻のプロダクションは、「コジ」で見られたシュールな空間が、左右方向ではなく前後方向に広がっているというものでした。新装なったモーツァルト・ハウスのオーケストラ・ピットは周りがかなり広いスペースで囲まれていて、それ自体がステージとして機能しています。そして、薄いカーテン(紙製?)で隔たれて本来のステージが奥深く広がっており、「コジ」同様、その先はカット・オフになっています。本来登場しないはずのネットゥーノ(ネプチューン=海神)を、役者が演じているあたりがユニークなところでしょうか。
ピットの床はかなり下げられているため、オーケストラの姿は映像では全く見えません。わずかに指揮者のノリントンの頭がピッとのぞいている程度、したがって、観客の目は全てステージに集中できるという「バイロイト効果」が現れています。そんな「見えない」オケは、逆にとても豊かな音楽を提供してくれることになりました。それは、モダン楽器によるピリオド・アプローチという最近のノリントンの方法論は、モーツァルトに於いてこそ十全に花開くものだということをまざまざと見せつけてくれるものでした。彼は、ロマンティックな手垢の付いたモーツァルトを一旦「素」に戻したあとで、その中から自然にわき出てくる美しいものを掬い出そうとしているかに見えます。それは何とも穏やかな、心に染みる音楽でした。この同じ会場でほんの1月前に行われた「フィガロ」で、ノリントンとよく似たアプローチをとっているとされる指揮者が見せたものとは、それは雲泥の差の魅力あふれるものでした。
そんな魅力が如実に伝わってきたのが、このオペラの中で最も有名なイドメネオのアリア「Fuor del mar」です。この役のヴァルガス、その、まるで西田敏行のような鈍くさい風貌と相まって、最初のうちはいかにも「イモ」という歌い方に感じられました。しかし、それは実はノリントンの音楽と見事にマッチしたものであったことが、このアリアが始まるやいなや分かったのです。イントロでのオケは、良く聴かれるような鋭角的な激しいものではなく、もっと滑らかで暖かい響きを持っていました。それにヴァルガスは見事に応えて、とても柔らかな音楽を作り上げてくれました。そして同時に、この曲のドラマティックな側面をダ・カーポの見事な装飾で完璧に表現するという、奇跡的なことも行ってくれたのです。
他のキャストも粒ぞろいです。コジェナーの凛々しさいっぱいのイダマンテや、初めて見たロシアのソプラノ、シウリナの可憐なイリアも素敵でしたが、中でもエレットラ役のハルテロスの存在感の大きさといったら。大詰めで歌われるやけっぱちのアリア「D'Oreste, d'Aiace」ではあまりに拍手が続くので、演出上の破綻が見られた程です。
さらに、合唱がとても素晴らしかったのが、嬉しいところです。「ザルツブルク・バッハ合唱団」という、恐らく普段はオペラに出たりはしない団体なのでしょう、最初のうちはオケとずれているところも見られましたが、その澄んだ声は普通のオペラハウスの合唱団からはまず聴くことの出来ないものでした。走り回りながら歌うというかなり無茶な演出もあるのですが、そこでアンサンブルが乱れることは決してありません。その上、「芝居」がとてもうまいのですから驚いてしまいます。
ピットの後(つまり観客側)で歌手が歌っている時に振り向いて指揮をしているノリントンの穏やかな表情がとても印象的でした。これが、これほど幸せになれる音楽を生み出したのですね。
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by jurassic_oyaji | 2007-04-02 20:26 | オペラ | Comments(0)