おやぢの部屋2
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SCHUBERT/Piano Quintet "Trout"
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Jan Panenka(Pf)
Frantisek Posta(Cb)
Members of the Smetana Quartet
日本ビクター/JM-XR24205


CDの可能性を究極まで高めた「XRCD」については、例えばミュンシュの「幻想」や「オルガン」などでよく知られているはずです。日本ビクターが開発したこの高音質CDは、元々ビクター関連のRCAなどのオリジナルテープを使って作られていたのですが、最近ではレーベルを超えて過去の「名録音」と呼ばれていたものも登場するようになっています。少し前にはHARMONIA MUNDIのパニアグワなどが出ていましたね。このレーベルは、昔ビクターが発売していたこともあったので関連はなくはないのですが、今回はSUPRAPHONですから、全く無関係なレーベルということになります。本当によい録音のマスターテープの持つそのままの音質をCDで再現できるというこのフォーマット(もちろん、普通のCDプレーヤーで再生できます)は、いつのまにかそこまでの広がりを持つようになっていました。
名盤の誉れ高いこの「鱒」を、1960年に録音されたマスターテープからCDのためにアナログ-デジタル変換を行う「マスタリング」という作業は、ビクターの杉本一家さんという方が担当しています。それが行われたのが2007年の2月なのですが、そのほんの1ヶ月ほどあとに、実は別の録音での彼のマスタリングの現場に立ち会う機会がありました。その時に杉本さんの仕事ぶりを目の当たりにすることができたのですが、そこで見せつけられたものは、良い音に対する徹底したこだわりでした。たとえば、最初に行われるのが、接続してあるケーブルをいろいろなものに交換して聴きくらべるということを幾度となく繰り返し、最もその音楽に合ったものを選び出すという作業なのです。XRCDの説明を読むと、使われている機材のスペックなどが詳細に述べられていますが、こういう作業を見ていると、それだけではない、本当に細かいところまで神経を使っているということが、如実に分かったものでした。そして、最終的には、実際にマスタリングを行う人の「耳」がものを言うことも、はっきり分かりました。そこには、マスターテープの持っている味わいを、いかにしたらそのままCDに移すことが出来るのかという、元の録音に対するとてつもなく深い愛情がありました。
ピアノのヤン・パネンカと、スメタナ弦楽四重奏団のメンバーが中心になって演奏された「鱒」の録音は、かつてはほとんど一つのスタンダードとして広く知られているものでした。市販されていたレコードも、もはやオリジナルのSUPRAPHONだけではなく、得体の知れないレーベルからも廉価盤という形で出ていることもあったほどです。それらに接した限りでは、録音の面では特に印象に残るようなものではありませんでした。ところが、今回の新しいマスタリングによるCDからは、そんなレコードとはまったく違った音が聞こえてきたのです。実は、冒頭のピアノのアルペジオが終わった後は、ゲネラル・パウゼだとばかり思っていました。ですから、そこでなにやら音が残っていたのを聴いたときには、てっきり録音上の事故だと思ってしまったのです。しかし、それはコントラバスが延ばしていた音だったのですね。今まで数え切れないほど聞いてきたこの名曲ですが、スコアを見たことはなかったので、こんな風になっていたなんて、これで初めて知らされたことになります。そのポシュタのコントラバスは、なんとニュアンスに富んでいることでしょう。ボウイングの返しまでとらえていた録音が、このマスタリングによって見事に再現されています。
同じように、パネンカのピアノも、実に生々しく再現されています。それは、単にピアノの音だけはなく、そのまわりの雰囲気まで感じられるほどのものでした。まるで、1960年頃のちょっと垢抜けないチェコの録音スタジオの風景までが眼前に広がっているような錯覚さえ、この録音は引きだしてくれていたのです。
マスタリングだけでこれほどまでに情報量が増えたことで、ちょっと思いついたものがあったので確認してみたら、かつて、最新のマスタリングで音が全く変わっていたことをお伝えしたメシアンの「時の終わりのための四重奏曲」のタッシ盤も、杉本さんが手がけていたものだったのですね。この「鱒」も、ますに「杉本マジック」のなせる技です。
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by jurassic_oyaji | 2007-05-12 22:11 | 室内楽 | Comments(0)