おやぢの部屋2
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音楽家カップルおもしろ雑学事典
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萩谷由喜子著
ヤマハミュージックメディア刊
ISBN978-4-636-81855-0


サブタイトルは「ひと組5分で読める」、メインタイトルともども、ちょっと軽めのスキャンダラスな読み物のような先入観を持って読み始めると、そのあまりに緻密な筆致に戸惑いをおぼえることでしょう。これは、「雑学」などという上っ面な言葉から連想されるイメージをはるかに超えた、ほとんど学術論文の域に達しているほどの著作です。
クレモナの名工ストラディヴァリから、ミュージカルのヒットメーカー、ロイド・ウェッバーまでという、幅広い時代とジャンルがカバーされているのに、まず驚かされます。そして、もちろんそこで扱われているカップルの物語は、さまざまな様相を示してくれています。一生仲むつまじく暮らしたものがある一方で、つらい別離を味わうものあるというのは、もちろん当たり前の話、音楽家に限らず、男女の仲などというものは、まさに千差万別なのですから。
そんな中で、どうしても別れ話の方につい引きつけられてしまうのは、他人の不幸を眺めて我が身の幸せを噛みしめたいという卑しい根性のあらわれでしょうか。例えば、ショパンとジョルジュ・サンドという、まるで運命の導きであるかのように結びつき、創作意欲の源となった関係でさえも、時が過ぎれば次第に疎ましくなってくるという様を、細かな時系列とまわりの人間との微妙なスタンスの変化を交えつつ丁寧に描かれれば、これもまた男女間の生業と悟ることが出来るはずです。「私の腕の中以外のところでは絶対に死んではだめよ」と言い続けていたサンドが、9年も経った頃にはあっさりこの愛人を捨ててしまうに至る経過は、筆者の豊富なリサーチに基づく刻銘な描写によって、手に取るように理解できるのです。
生涯一度も会うことのなかった庇護者、フォン・メック夫人が、チャイコフスキーに援助打ち切りの手紙を送ってきたくだりも、迫力に満ちたものです。突然の一方的な知らせに、何度問い合わせの手紙を出してもなしのつぶて、これは、今でしたらメールの着信拒否でしょうか。永遠に関係が続いていくと信じていたときのこんな仕打ちがいかに辛いものか、思わず我が身に置き換えて嘆きにくれる読者も、もしかしたらいるかもしれませんね。この場合は、最近の資料による証言によってその真相を知ることが出来ますが、現実には何も知らされないままの方が遙かに多いことでしょうから。
プッチーニと彼の妻エルヴィーラが結婚するまでのいきさつ、そしてその後日談などは、今回初めて知ることが出来ました。夫を捨ててまでして貧乏な作曲家との禁断の恋を選んだというのに、その相手が成功を収めたあとの豹変ぶりはどうでしょう。すっかり金の亡者と成り果てて、何一つプッチーニの創作上の助けなど出来なかっただけでなく、挙げ句の果てには個人的な嫉妬から、何の罪もないメードを自殺にまで追いやってしまうのですからね(冥土のみやげに「私の体を調べてください」と書き残したため、潔白が証明されました)。
こんな感じで、なぜか筆者のスタンスは女性に厳しく、男性が憎めないものとされているのが、心地よく読み通せた原因だったのかもしれません。そのせいで、ちょっと技巧的でくさい構成も、ほとんど気にはなりませんでした。
ボーナス・トラックとして、本編の「49組」以外に、さらに「21組」のごく簡略な紹介があります。それによってアンドレ・プレヴィンとアンネ・ゾフィー・ムターが、2006年にすでに離婚していることを知りました。ほんと、「ずっと一緒よ」などという口約束ほどあてにならないものもありません。
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by jurassic_oyaji | 2007-05-31 20:25 | 書籍 | Comments(0)