おやぢの部屋2
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MOZART/Gran Partita
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Joan Enric Lluna(Cl)
Moonwinds
HARMONIA MUNDI/HMI 987071



この品番はスペイン(+ポルトガル)の「HARMONIA MUNDI」なのでしょうね。ブックレットにはスペイン語、フランス語、英語によるライナーが載っています。スペイン出身、イギリス各地のオーケストラで首席奏者を務めたクラリネット奏者、ホアン・エンリク・ルナが、やはりオーケストラの首席奏者などの仲間を集めて2005年に設立した管楽器のアンサンブル「Moonwinds」のアルバムは、スペインのヴァレンシアで録音されています。このアンサンブルの名前は、ルナ=月というところから来ているのでしょう。若干スペルは違っているな
曲目は、おなじみモーツァルトの「グラン・パルティータ」と、彼と同時代のオーボエ奏者ヴェントが木管八重奏に編曲した「後宮からの誘拐」、そして、やはり彼と同時代の作曲家ヴィセンテ・マルティーン・イ・ソレルの、「『コサ・ララ』のテーマによる、木管八重奏のためのディヴェルティメント」というものです。実は、この、最後におまけのように入っている曲が、このCDのお目当てでした。
マルティーン・イ・ソレルというスペインの作曲家は、1754年生まれといいますから、モーツァルトより2年年上ということになります。さらに、亡くなったのは1806年、このアルバムが録音された昨年2006年は、没後200年という記念の年でした。ヴァレンシア、マドリッド、ナポリ、ウィーン、ロンドン、そしてサンクト・ペテルブルクと、世界中で活躍した人ですが、ウィーンにいた頃はちょうどモーツァルトも同じ街で活躍していました。そのモーツァルトに3本のオペラ台本を提供したロレンツォ・ダ・ポンテは、このマルティーン・イ・ソレルのためにもやはり3本の台本を書いていますが、そのうちの一つが「Una cosa rara」という作品です。日本語では「椿事」と訳されていて、全曲盤のCDも出ていますが(ASTREE)、もちろん同じダ・ポンテの「フィガロの結婚」や「ドン・ジョヴァンニ」に比較すれば、現代では完璧に忘れられている作品ということになるでしょう。しかし、作られた当時は人気は全く逆転していました。事実、「フィガロ」が初演された数ヶ月後にこの「椿事」が上演されて評判をとってしまったために、「フィガロ」の上演は打ち切りになってしまうほどでしたから。
そんな屈辱的な思いを、モーツァルトが次の作品の「ドン・ジョヴァンニ」に込めたお陰で、「Una cosa rara」の中のあるメロディだけは、オペラファンであれば誰でも聴いたことのあるものとなっています。それは第2幕のフィナーレ、騎士長を迎えるための晩餐の用意をしている場面で、ステージ上の楽士がBGMを演奏し始めると、レポレッロが「Bravi! "Cosa rara"!(いいぞ!「コサ・ララ」だ!)」と叫ぶ場面です。そこで聞こえている音楽こそが、このオペラの中の「O quanto un si bel giubilo」というアリアの一節なのです。ドン・ジョヴァンニが「この曲はどうだ?」と聞くと、「あなた様にお似合いです」と答えるあたりに、モーツァルトの気持ちが込められているのでしょう。もう少し先に彼自身の「Non più andrai」が聞こえてくると、レポレッロは「Questa poi purtroppo la conosco(こいつはあまりにも有名だ)」と歌うのがオチになっています。
この有名なメロディが第3楽章で現れるマルティーン・イ・ソレルの「ディヴェルティメント」、これはまさに「モーツァルトが、ちょっと生真面目になって書いた音楽」といった趣の曲です。第2楽章アンダンテの終止へ向かう雰囲気などはまさにモーツァルトと瓜二つ、ほんのちょっとしたところでわずかに「別の人」というテイストが感じられますが、それはモーツァルトの作風として私達が認知できる許容範囲を超えるものではありません。ここでもまた、モーツァルトの音楽があくまでその時代の様式の中にあったものだということが再確認できることでしょう。
演奏としては、やはりメインの「グラン・パルティータ」が、表現などにしっかりと練られたあとが感じられます。アーティキュレーションにちょっと馴染みのない扱いが聞かれますが、それも彼らの確固たる意志のあらわれと受け止めることが出来るほど、高い完成度が見て取れます。リーダーのルナと、1番オーボエのルンブレラスの、いかにもラテンっぽい明るい音色と音楽が、印象的です。
by jurassic_oyaji | 2007-06-04 19:59 | 室内楽 | Comments(0)