おやぢの部屋2
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POOK/The Merchant of Venice
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Andreas Scholl(CT)
Hayley Westenra(Sop)
DECCA/475 6367
(輸入盤)
ユニバーサル・ミュージック
/UCCL-1099(国内盤)


最近のテレビドラマを見ていると、音楽がうるさすぎるように感じられることはありませんか?例えば、日本最大のテレビ局が半年間放送している連続ドラマの最新のシーズンでの音楽などは、その最もわかりやすい例かもしれません。その日のドラマの最後3分というときに始まる音楽の、なんと主張に富んでいることでしょう。そこで演技している役者さんの台詞などよりも、そこの音楽の方がよっぽど目立って聞こえてきて、物語のすべてを語っているような気になってしまうと思えたりはしないでしょうか。確かに、映画やドラマにとって、音楽は言葉では表現できないような雰囲気を伝える重要なファクターではあります。しかし、オペラやミュージカルではないのですから、音楽そのものが出しゃばってくるのは見苦しい(聞き苦しい)ものです。このドラマを見る人なら誰でも、そんな勘違いによって作られている音楽がいかに醜いものであるかに気づくことが出来るはずです。
もちろん、本当に優れた映画やドラマの音楽であれば、決して「うるさい」とか「邪魔だ」などと感じることはありません。最近テレビで見たアル・パチーノ主演の「ヴェニスの商人」が、まさにそんな理想的な音楽を聴かせてくれるものでした。あまりに素晴らしかったものですから、こうしてサントラ盤まで買ってしまったというわけです。
この映画で音楽を担当したのは、ジョスリン・プークという、イギリスの女性の作曲家です。ギルドホール音楽院でヴィオラを学んだ後、プレーヤーとして坂本龍一やピーター・ガブリエルなどとも共演したというユニークな経歴の持ち主、キューブリックの最後の作品「アイズ・ワイド・シャット」のスコアも書いています。その映画では、キューブリックの得意技、テンプ・トラックがそのまま使われたリゲティの「ムジカ・リチェルカータ」やショスタコーヴィチの「ジャズ組曲」の印象があまりに強かったため、彼女の音楽は全く記憶にありません。しかし、この「ヴェニスの商人」では、物語と同時代の音楽のテイストをふんだんに盛り込むことにより、その格調高い映像にさらなる輝きを与えることに成功しています。
ここで彼女が目指したのは、ルネサンスや初期バロックあたりの雰囲気を端的に感じられるような音楽を作ることでした。楽器もそのころの、いわゆる「古楽器」が使われています。素朴な音色のハープやリュートなどが、曲のバックグラウンドであの時代の優雅な音楽のエッセンスを語る一方で、トルコの「カヌム」というツィンバロンのような音を出す民族楽器(前回の「サルバンド」でも使っていましたね)をフィーチャーすることによって、ちょっとオリエンタルなテイストまで醸し出させています。そして、それらを現代の芳醇なストリングスが包み込むことによって、時代も、そして地域も越えた上で、「ヴェニスの商人」の世界に最もふさわしい音楽を作り出したのです。
楽器だけではなく、ヴォーカルにもそのような配慮がなされています。後半になってたびたび聞こえてくるのがアンドレアス・ショルのカウンターテナー。この中性的な声はまさにこの世界にうってつけです。多重録音で途中から2声、最後には3声でハモらせるという処理も見事です。もう一曲、オープニングのタイトル・ロールで「リベラ」がレスポンソリウムのようなものを歌っている教会のシーンもありました。そこで合いの手を歌っているのが、プークの共同プロデューサーであるハーヴェイ・ブロク、彼は昔は聖歌隊員だったのだそうです。エンド・ロールだけですが、あのヘイリーも、その無垢な声を披露してくれます。その中でプーク自身がヴィオラのオブリガートを弾いているのもさりげないお楽しみです。
というような細かいことは、このサントラ盤をじっくり聴いて知ったこと、映画では音楽は控えめに流れているだけで、見事に画面とマッチしていました。これが「どんど晴れ」(あっ、実名を出してしまった!)との最大の違いです。
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by jurassic_oyaji | 2007-06-08 20:49 | 映画 | Comments(0)