おやぢの部屋2
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DEBUSSY, BRIDGE, GLAZNOV, 周/Seascapes
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Sharon Bezaly(Fl)
Lan Shui/
Singapore Symphony Orchestra
BIS/BIS-SACD-1447(hybrid SACD)



このレーベルではチェレプニンの交響曲全集が好評を博している、ラン・シュイ指揮のシンガポール交響楽団の最新アルバムです。島国であるシンガポール、当然海とは関わりの深い土地柄ですが、ここにはさまざまな作曲家による「海」をテーマにした作品が集められています。それを彩るジャケット写真は、オーケストラのヴァイオリン奏者であるウィリアム・タンという人が撮影したものだそうです(「」や「」と、なんだか病的)。ただ、おなじみ、ドビュッシーの「海」以外のものは、かなりマイナーな曲ばかりです。グラズノフに「海」などという曲があったことは初めて知りましたし、フランク・ブリッジというイギリスの作曲家と、そして中国の周龍(ジョウ・ロン)というのは、もちろん初めて知った名前です。
ここでのお目当ては、その周の「深い、深い海」という、2004年にシャロン・ベザリーのために作られた曲です。特にクレジットはありませんが、たぶんこれが初録音になるのでしょう。ふつうのフルートではなく、アルト・フルートとピッコロが使われています。そもそも、民族的な竹の楽器のために作られた曲が元になっていますから、ここでのベザリーの楽器は、完璧に西洋的な属性を剥奪された扱いを受けています。最初と最後に現れるアルト・フルートは、まるで日本の尺八のよう。音楽も、彼女お得意の華々しい技巧は全く聴かせることのない、落ち着いた瞑想的な雰囲気に終始して、ひたすら中国風の5音階の世界をさまようものです。中間部がピッコロとなり、お祭りのような華やかさがアクセントとなります。これを聴く限り、このオーケストラは見事に自国圏の語法を西洋楽器で再現しているな、という感じを受けます。
そんなオーケストラのキャラクターは、東洋の異国趣味を作品の中に持ち込んだドビュッシーの「海」を演奏するとき、とてつもない力となって迫ってきます。それは、まるでその部分だけが蛍光ペンでマークされたように、この曲の中のアジア的な要素が、見事に浮き上がってくるという、ある意味痛快なものだったのです。1曲目などは、こんなにも5音階が使われていたことが改めて認識できるほど、そのアジア風の旋法は目だって聞こえてきます。ドビュッシーとは中国の作曲家だったのではと錯覚してしまうほど、それは見事に演奏家の共感が伴った5音階です。そして、とどめはクライマックスの銅鑼の一撃でしょう。この打楽器が、この曲の中でこれほど自らの出自を主張できたことなど、おそらく初めての体験だったのではないでしょうか。3曲目が始まってしばらくしてから聞こえてくるトランペットのソロも、フレーズの切れ目での独特の「タメ」が、とても東洋的な感傷を誘うものでした。その同じテーマが最後近くにヴァイオリンで演奏されるときの堂々たるポルタメント。これによって、この曲は「フランス印象派」という小粋な衣装を、ものの見事に脱ぎ捨てさせられてしまったはずです。
たとえ西洋の作曲家が作ったものであっても、その中に自分たちに由来するものが含まれていれば、ためらうことなくそこに民族の血を反映させる、こんなことは、常に西洋をお手本にして突き進んできた我々日本のオーケストラでは、絶対に出来ないことです。ここまでやってしまえるシンガポールのオーケストラをうらやましいと思える気持ちは、我々は何か大切なものをなくしてしまっているのではないかいう思いを巡らすことと同じ次元のものに違いありません。
ブリッジの組曲「海」やグラズノフの幻想曲「海」では、うってかわってスマートそのものの見事に引き締まった演奏を聴かされたりすれば、その思いはさらに募ります。
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by jurassic_oyaji | 2007-06-14 19:54 | オーケストラ | Comments(0)