おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
WAGNER/Opera Arias
c0039487_23152475.jpg


Jess Thomas(Ten)
Walter Born/
Berliner Philharmoniker
DG/476 8023



1960年代から70年代にかけて一世を風靡したヘルデン・テノール、ジェス・トーマスが1963年に録音したリサイタル盤がCD化されました。DGの「オリジナルズ」なのですが、なぜかオーストラリアのユニバーサルという「地域限定」のリリースです。
1927年生まれのアメリカのテノール、ジェス・トーマスといえば、このジャケットとほぼ同じ衣装とポーズの写真がやはりジャケットに使われている、ルドルフ・ケンペ指揮のEMIの「ローエングリン」のレコードによって、当時のワーグナー・ファンの記憶の中には刷り込まれているはずです。
c0039487_23163730.jpg

この、1963年のスタジオ録音盤と、もう一つ、1962年のバイロイト音楽祭におけるハンス・クナッパーツブッシュ指揮による「パルジファル」のライブ録音(PHILIPS)こそは、ジェス・トーマスのタイトル・ロールの魅力によって、この2つの演目のスタンダードなアイテムとしての変わらぬ評価を獲得しているアルバムとなっているのです。
この、ワーグナーの作品ばかりを集めたリサイタル・アルバムが録音されたのは、これらのものとほぼ同時期、正確には彼が35歳の、まさに若さに充ち満ちた時です。バックのオーケストラはベルリン・フィルという豪華なものですが、指揮をしているのがワルター・ボルンという、ほとんど聞いたことのない名前の方です。もちろん男性、巨乳の女性ではありません(それは「ボイン」)。しかし、この人は録音こそほとんどありませんが、長らくバイロイトのスタッフを務めた経験豊かな指揮者です。さらに、トーマスが最初にドイツでキャリアを築き始めたカールスルーエ歌劇場の指揮者だったという縁もあって、ここに起用されたということです。
このボルンの指揮が、ただの伴奏に終わっていない、とても攻撃的なものであったことが、このアルバムの魅力をさらに高めることになりました。歌手を立てるところは立てつつ、オーケストラにとことん雄弁さを求め、それにベルリン・フィルがしっかり応えた結果、まるで火花が飛び交うような緊張感あふれる演奏が誕生したのです。歌手のリズム感が優れているのも、大きなファクター、ここにはいささかの停滞もない引き締まった音楽の流れがあります。
そんな爽快さを味わえるのが、「マイスタージンガー」ではないでしょうか。トーマスの輝きに満ちた声の間を埋めるかのように、複雑に入り組んだ細かい音符が飛び跳ねる様は、とても生命感にあふれていて圧倒されてしまうことでしょう。そして、最大の聞き物は、なんと言っても「ローエングリン」の中の「In fernem Land」です。オーケストラの前奏のなんと繊細なことでしょう。それに導かれるトーマスの歌はまさに絶品です。
このアルバムには、ヘルデン・テノールの定番であるトリスタンやジークフリートが含まれてはいません。逆に、少し軽めのキャラである「ラインの黄金」のローゲの歌が入っています。この時期、彼はあえてこのような「重い」ロールを避けていたということですが、それには偉大な先達のヴィントガッセンの存在が大きかったことは、想像に難くありません。たぶん、この数年前に出た彼の同じようなアルバムが、きっと頭の隅にはあったに違いありません。
もう少し経って1969年にはカラヤンとジークフリートを演奏することになりますし、1974年にそのヴィントガッセンが亡くなってからは、「世界一のヘルデン・テノール」と誰からも認められる存在となるのですが、そこに至るまでの過程までも垣間見られる、興味の尽きないアルバムです。
[PR]
by jurassic_oyaji | 2007-06-22 23:17 | オペラ | Comments(0)