おやぢの部屋2
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SIBELIUS/Lieder
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Kim Borg(Bas)
Erik Werba(Pf)
DG/00289 477 6612



大昔、それこそ自分のお金で買えるLPなど限られていた頃は、1枚1枚を何回、いや何十回と繰り返し聴いたものです。物が潤沢ではなかった分、愛着の深さは現在の比ではありませんでした。そんな中に、DGのシューベルトの歌曲を集めた10インチ盤のコンピレーションアルバムがありました。そこで「魔王」(「菩提樹」だったかもしれませんが)を歌っていたのが、キム・ボルイという面白い名前のバス歌手でした。演奏自体はすっかり忘れてしまいましたが、その印象的な名前だけは、「君、ボロい」と馬鹿にされたように思えて、それ以来ずっと記憶の中にとどまっています。
おなじみ、「spotlight」シリーズで、あの10インチ盤と同じ黄色いジャケットによるキム・ボルイのアルバムが出たときには、そんな遠い昔の記憶が呼び覚まされる思いで、曲目も確かめずに買ってしまいました。そういえば、彼の写真を見るのはこれが初めて、なかなか端正な顔立ちだったのですね。
キム・ボルイは、1919年に生まれて2000年に亡くなったフィンランドのバス歌手です。オペラでは「ドン・ジョヴァンニ」や「ポリス・ゴドゥノフ」のタイトル・ロールや「バラの騎士」のオックス男爵などが当たり役だったということです。もちろん、先ほどのシューベルトのように、リートの分野でも活躍、このアルバムも、彼の母国の作曲家シベリウスの歌曲を集めたものです。
実は、シベリウスの歌曲などというものは、今までほとんど聴いたことがありませんでした。そもそも、彼の歌曲だけを集めたアルバムなども殆どなかったと言いますから、それも無理のないことなのでしょう。そういう意味で、この1958年にモノラルで録音された歌曲集は、現在でも存在価値を持っているに違いありません。
そんな初体験のシベリウス、ボルイはとっても丁寧に歌ってくれています。彼の声は他の北欧の歌手たちと同様、とても深みのあるものですが、決して重たい印象はなく、どちらかといえば軽め、その上に繊細さが伴っています。フィンランド語の歌詞の歌などは、特に一つ一つの言葉を大切に歌っているのが(意味は全く分かりませんが)、大変よく分かります。そして、彼のすばらしさは、本当に息を潜めるような弱音の部分で最高に発揮されています。まるで細い糸のようにピンと張られたその弱音は、とてつもない緊張を伴って迫ってきます。そんな極上のピアニシモがあるからこそ、フォルテシモとの表現の格差は際だって、とてもヴァラエティにあふれた世界が、このシベリウスから導き出されているのです。
そう、ここで聴くことの出来るシベリウスの歌曲の多彩な内容といったらどうでしょう。素朴な民謡調のものから、ダイナミックに歌い上げるもの、しっとり語りかけるかと思えば、コミカルなテイストまで含まれています。英語のテキストで歌われるものもあり、それなどはまるでミュージカルのような軽さも伴っていますよ。実は今年はシベリウスの没後50年という記念の年、この機会にこれらの歌曲がもっともっと聴かれる機会が増えてもいいのではないでしょうか。そんな中で、唯一馴染みのあるのが「フィンランディア」です。これは、よく聴く合唱版とは全く肌触りが異なることに驚かされます。言葉の隅々にしっかり引っかかりを持たせたボルイの歌からは、この曲の持つ力がストレートに伝わってきます。ところどころで聞こえてくる「スオミ」という言葉に、母国に寄せる深い意味が宿っていることを強く感じないわけにはいきません。
ボーナストラックで、1960年にステレオで録音された完全初出のイリョ・キルピネンの歌曲が3曲と、シベリウスの別テイクが2曲収められています。ほんの2年の間の録音技術の進歩も、ここでしっかりと味わうことが出来ます。
by jurassic_oyaji | 2007-07-12 19:45 | 歌曲 | Comments(2)
Commented by FUJII at 2007-07-16 22:46 x
はじめまして。時々拝見しているのですが書き込みは初めてになります。
いつも唸らされるような選盤を楽しませて頂いております。
さて、私はシベリウスというと歌曲も非常に重要なジャンルと思っているのですが、世間一般では殆ど知られていないでしょうね。このボルイのCDで知って頂ける方が増えるのを祈りたい気分です。この録音、私もこれで初めて聴いたのですが非常に水準の高い傑作だと思うからです。
ご指摘の通りフィン語の歌曲がとりわけ素晴らしいです。
あと英語で歌われているのはシェイクスピアの十二夜からフェステの歌ということで、これオリジナルはスウェーデン語なのです。私もこれを英語で歌われるのは初めて聴いたのでビックリしました。
少しずつではありますが、私のところではシベリウスの歌曲の対訳を増やしておりますのでよろしければご覧ください。このCD、唯一の難点は歌詞が載ってないことでもありますので...
Commented by jurassic_oyaji at 2007-07-16 23:16
FUJIIさま
いつもご覧いただいて、ありがとうございます。
確かに、こういうレアな曲目で歌詞が一切掲載されていないのはなんとも片手落ちな気がします。「うた」のサイト、すごいですね。これからも参考にさせて頂きます。ありがとうございました。