Luciana Souza(Vo)
Dawn Upshaw(Sop)
Kronos Quartet
Robert Spano/
Atlanta Symphony Orchestra and Chorus
DG/00289 477 6426
外国人の名前の表記は難しいもので、この、
DGというクラシック界の老舗レーベルが最近贔屓にしているアルゼンチン出身の作曲家も、いろいろな読み方をされているようです。かく言うこのサイトでも、一番最初に彼の作品を取り上げた時には「ゴリヨフ」だったものが、しばらく経ったら「ゴリジョフ」に変わっていたりしますから、同じ人間が書いてさえいても混乱が伴うわけです。しかし、最も新しい情報では、どうやらこの人は「ゴリホフ」と呼ばれているらしい、ということなので、この際ですから「ゴリヨフ」も「ゴリジョフ」も、きちんと「ゴリホフ」に直しておきました。そう言えば、ドビュッシーに「
ゴリホフのケークウォーク」というピアノ曲がありましたね(それは、「ゴリウォグの~」)。
そんなゴリホフがこのレーベルから発表したばかりの3枚目のニューアルバムは、しかし、もしかしたらそんな新しい物ではなく、ずっと昔の録音を再発売したのだと思われて、CD棚の前を素通りされてしまうかもしれません。というのも、誰が見てもこのジャケットは、ビル・エヴァンスとジム・ホールが
1962年に
UNITED ARTISTSに録音した「
UNDERCURRENT」というアルバムそのものなのですから。
いくら
DGの黄色いロゴは入っていたところで、「ビル・エヴァンスの音源がこんなところに・・・」と思われるのが落ちでしょう。そう、このジャケットは、半世紀近い歴史の中で、もはやこのアルバムとは切っても切れない確固たるイメージを作り上げてしまっているのです。
もちろん、このジャケットの写真は、トニ・フリッセルという女性写真家が雑誌に発表した「
Weeki Wachee Spring, Florida」というれっきとした「作品」ですから、例えば印象派の画家の作品をドビュッシーあたりのアルバムのジャケットに使うのと同じノリで、別に誰が使っても問題になるわけではありません(このアルバムでも、きちんとクレジットが入っています)。しかし、これだけ特定のアルバムとの結びつきが強い、確実にそのアルバムのパクリと思われてしまいかねない写真を敢えて使うからには、それなりの意味があるのではないかと考えるのは当然のことでしょう。しかし、残念ながらこの2つのアルバムの間の関連性を示唆するものは、パロディも含めて何一つ認めることは出来ませんでした。デザインを担当したチカ・アズマは、ジャズのアルバムを数多く手がけている人ですから、エヴァンスのものを知らないわけはないというのに。
もう一つ気になるのは、このアルバムがリリース予定になった直後、まだ市場にも出ていないのに突然廃盤扱いになってしまったという事実です。このジャケットを巡っての何らかのトラブルがあったことをそこから推測するのは、果たして見当外れの邪推でしょうか。
おそらくこのジャケ写にコンセプトを求めたであろう「オセアナ」という曲は、ヘルムート・リリンクの
2000年の「現代作曲家による受難曲」のプロジェクトの成果である
「マルコ受難曲」の萌芽とも言うべき作品です。やはりリリンクによって
1996年に委嘱されたもので、ラテンリズムに乗ったルシアーナ・スーザ(「マルコ」でもソロをとっています)のクラシックからは対極にあるヴォーカル・パフォーマンスが聞きものです。これを聴いてしまうと、別のトラックで「3つの歌」を歌っているドーン・アップショーがなんとも堅苦しいものに感じられてしまうから不思議です。最後の曲などはかなり崩してはいますが、それはスーザとは全く異なる次元のものです。これだけかけ離れた音楽性が要求される作品を同時に創り出すことが出来るゴリホフのユニークな才能こそを、ここでは賞賛すべきなのかもしれません。