おやぢの部屋2
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Bernd Weikl(Il Conte di Almaviva)
Gundula Janowitz(La Contessa)
Hermann Prey(Figaro)
Lucia Popp(Susanna)
Agnes Baltsa(Cherubino)
Jean-Pierre Ponnelle(Dir)
Karl Böhm/
Chor und Orchester der Wiener Staatsoper
NHK/NSDS-9492(DVD)



1980年に日本公演を行ったウィーン国立歌劇場の演目のうちのNHKによって収録されていた「フィガロ」がDVDとなりました。演出はジャン・ピエール・ポネル(元の演出はポネルですが、ここでは「ツアー演出」ということでヘルゲ・トーマがクレジットされています)、歌手もプライ、ポップ、ヤノヴィッツ、バルツァ、ヴァイクルという当時の最高級品が取り揃えられたという、超豪華版。しかし、何と言っても最大の目玉は、この公演の翌年には他界してしまうことになる指揮のカール・ベームに違いありません。まさに最晩年のベームの映像、これを涙なくして見ることなど出来るでしょうか。
当時の撮影スタッフも、そのあたりは十分に承知していたことでしょう、序曲の間中、カメラはベームの姿だけを執拗に撮り続けます。極端に力の抜けた、殆ど流れに身を任せているかのような指揮ぶりは、彼がたどり着いた究極の境地でしょうか。そこから導き出される音楽は、もはやあれこれ言うような次元を超えた、おおらかな広がりを持ったものでした。それは、この時代の少し後にモーツァルトの演奏に襲いかかる革命の波などは全く知らない世界の、ある意味幸福な時代の産物には違いありません。しかし、そのどこにも無理のない、ひたすら美しい姿だけをさらけ出している音楽には、何の抵抗もなく引き込まれてしまう力がありました。
中でも絶品は、第3幕の伯爵夫人のアリア「楽しい思い出はどこへDovo sono i bei momenti」と、第4幕のスザンナのアリア「恋人よ、早くここへDeh vieni, non tardar, o gioia bella」でしょう。今にして思えば信じられないほど遅いテンポで迫ってくるものは、確かにこの上ない陶酔の世界です。それは、後者のアリアが婚約者にやきもちを焼かせるという屈折した意味を持っていることなど忘れさせてくれるほどの魅力を持ったものです。モーツァルトの演奏における一つの時代を、ここでは確かに感じることが出来るはずです。
演奏とともに、オペラの上演のあり方についても、このDVDは示唆に富んだ記録として捉えることが出来ます。この当時はおそらくホールの中に日本語の字幕が掲示されるというようなサービスはなかったはずです。オペラを見ようと思ったら、台本の対訳を見ながらレコードを聴いて、音楽と物語をしっかり頭の中に入れておかなければ、満足に鑑賞は出来なかった時代です。そこには、最高の演奏者と、高度に修練を積んだ聴衆との間の息詰まるような緊張感が存在していたはずです。したがって、アリアが終わって扉の陰に退場した歌い手であっても、あえて物語の流れを断ち切って聴衆の強烈な拍手に応えるためだけに、再度登場するようなことも許されるのです。ただ、ヤノヴィッツだけは、目の奥にあからさまな嫌悪感をたたえていたことは、注目に値するでしょう。
収録されたビデオテープのマスターは、おそらくもう廃棄されており、放送時に挿入された字幕などがそのまま残った「完パケ」しか残ってはいないのでしょう。ここでは格段に大きなフォントのスーパーが目を引きます(当時の標準は14インチのブラウン管でしょうか)。その対訳に携わった方がライナーに文章を寄せていますが、当時のディレクターだったその方のお名前は武石英夫。イタリア語をそのままの語順で訳したために、日本語としては笑うしかないようなお粗末な対訳で(あんこがしっぽまで入っていません・・・それは「たいやき」)、一目見ればこの方が作ったことが分かってしまうスーパーをあちこちで披露している武石さんは、NHKの職員だったのですね。もしかしたら、これが分かったことが、9000円以上という大枚をはたいてこのDVDを入手した最大の収穫だったのかもしれません。ほんと、2枚組のオペラのDVDがこんな値段だなんて、完全に消費者をなめてます。
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by jurassic_oyaji | 2007-07-24 22:51 | オペラ | Comments(0)