おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
Solo
c0039487_20114044.jpg




高橋悠治(Pf)
AVEX/AVCL-25154



ひところ、楳図かずおさんがテレビのワイドショーなどによく登場していましたね。びっくりしたのは、テロップにカッコ、70才、カッコ閉じ、と出ていたことでした。これは2つの意味での驚き、「まことちゃん」で一世を風靡したこの漫画家も、もう70才になっていたのか、という驚きと、久しぶりに見たその外見がとても70才とは思えないほどの若々しいものだったという驚きです。その服装も含めて、これは、まるで少年ではありませんか。
1938年生まれといいますから、高橋悠治ももはや殆ど70才と言っていいほどの歳になりました。しかし、こちらは外見的にはもはやすっかりじいさんです。何よりも、ジャケットのこの柳生弦一郎のカリカチュアは、まるで落語に出てくる長屋の大家さんといった感じ、残酷なまでに「老い」を強調したものとなっています。アーティストのイラストとして、これほどそぐわないものも希でしょう。サインペンのベタがいっそうのチープ感をそそります。
しかし、悠治の音楽はそんなじいさん臭さなど全く感じさせないような、「若い頃」となんら変わらないものでした。一見小品集のようなおもむきを見せるこのアルバムは、悠治ならではの刺激に満ちた、油断の出来ないものだったのです。
最初のトラック、モーツァルトのロンドニ長調が始まった瞬間に、聴き手はそのことに気づかされるはずです。巷にあふれるフワフワしたモーツァルトとの、なんという違いようでしょう。最も際だっているのが、装飾音の扱い、それらは元の音との関連性を否定されて、それ自体で存在を主張しているかのように、刺激的に響きます。そこからは、滑らかで落ち着きのある流れなどは生まれようもありません。悠治特有の独特の「間」とも相まって、あちこちにささくれだったところの残る原木のような、不思議な肌合いが姿を現すのです。最後に登場することになるイ短調のロンドに至っては、おどろおどろしいほどのテイストさえ備えています。
シューベルトのピアノソナタ第20番では、第2楽章だけを演奏するというアイディアによって、全体のソナタを聴いていたときには分からなかったようなこの曲のダイナミックな側面が認識されるようになります。確かに和声は紛れもないシューベルトのものであるにもかかわらず、悠治によって施された極限までのダイナミック・レンジによって、それは確実にロマン派の範疇を超えたスケールの作品になっていました。
ガルッピのソナタという、殆ど18世紀の陳腐さしか残らないような作品でも、悠治のレアリゼーションは容赦がありません。装飾的なフレーズを彼が弾くとき、それはとてもグロテスクな音列に変貌します。エレガントだと信じて疑わなかった音楽が、一皮むけばこんな醜いものだと知ったときの驚きは言葉には尽くせません。単調に繰り返される左手のほとんど白痴的な伴奏の、なんとシニカルに響きわたることでしょう。
ショパンのマズルカからは、見事に3拍子の「舞曲」としての側面が剥奪されていることが分かるはずです。ここでも、美しさの陰に潜む別の味わいを探り出す悠治の手腕は、冴えわたっていまずるか
自作の「子守唄」は、まるで他の「名曲」を読み解くときのパスワードのように感じられてなりません。それだからこそ、この曲の力の抜けたたたずまいは一層際だちます。
このアルバムで健在さを示した悠治の一貫した音楽に対する挑戦的な姿勢は、極彩色の邸宅を住宅地のど真ん中に建てようとする楳図かずおの子供じみた挑戦とは根本的に異なるものです。本当の若々しさは外見だけでは決して知ることは出来ません。
[PR]
by jurassic_oyaji | 2007-08-15 20:13 | ピアノ | Comments(3)
Commented by てんてこ舞い at 2007-10-23 10:29 x
先日は僕のブログを訪問していただいて有難うございました。

今日はちょっと教えていただきたいことがあり書かせていただきます。

ときに、自分の好きな音楽でも聴きすぎて疲れることがあります。
そのようなときに聴きたくなるのはピアノです。
聴き疲れた脳をクラシックのピアノ・ソロで洗浄したくなることがあります。

どこかで聴いたことがあるようなポピュラーな聴きなれたクラシックのピアノ曲を
集めた「録音の良い」アルバムがありましたら教えていただけませんでしょうか。

クラシックの録音は「遠くのほう」で演奏しているように聴こえるような気がします。
希望としては「目の前」でピアノのフタを開けて頭を突っ込んで聴くような
音がいいのですが・・・ちょっと大げさでした。

ジャズでは、鍵盤の左側の音が左のスピーカー、右側の音は右のスピーカー・・・
というような録音があります。

正道ではないかもしれませんが、そのような録音のピアノのクラシック名曲集の
アルバム名をご存知でしたら教えていただけませんでしょか。

クラシックに関しては全く知識がありません。
よろしくお願いいたします。
Commented by jurassic_oyaji at 2007-10-23 10:58
てんてこ舞いさん。
「名曲集」とはちょっと違うのですが、ちょっと前にここでご紹介した高橋悠治のドビュッシーなどは、そんな録音になってます。
http://jurassic.exblog.jp/4510699
あまりなじみのない曲かもしれませんが、ジャズが好きな方でしたらあるいは気に入るかもしれないような演奏と、録音ですよ。
Commented by てんてこ舞い at 2007-10-23 21:11 x
このアルバムを試聴できるところをネットで
検索しているところです。
すばやいレスポンスに感謝いたします。
ありがとうございました。