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知ってるようで知らない バイオリンおもしろ雑学事典
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奥田佳道監修/著
ヤマハミュージックメディア刊

ISBN978-4-636-81891-8



音楽評論家の奥田佳道さんがお書きになったバイオリン(どうもなじめないので、「ヴァイオリン」と表記させていただきます。これだとなんだかバイオ燃料みたいで)についての蘊蓄を集めた本です。「監修」というのは、全部で6章から成るこの本の第2章と第3章は別の方、山田治生さんという音楽評論家が書いているためです。奥田さんも山田さんも実際にヴァイオリンやヴィオラを演奏なさる方々ですから、かなりマニアックなことまで扱われていて、とても参考になります。この楽器に関する、かなり高度な入門書と言えるでしょう。それぞれの章の中は、タイトルごとに殆ど1ページか2ページの短い文章が集まっていますから、力まずに読めてしまうのも魅力的です。
山田さんが担当されている部分は、もっぱら基礎知識といった感じでしょうか。まるで実際にこれから楽器を演奏してみようとする人に対するような、実践的な知識が披露されています。ヴァイオリンなんか全く弾いたことのない人でもなんだか自分で音を出しているような気になってくるから不思議です。「どうやったら良い音が出る?」というタイトルでは、弓の当て方、右手と左手の使い方など、懇切丁寧に教えてくれていますし。
彼のパートで最も印象に残ったのが、バロック・ヴァイオリンに関する記述です。一般の愛好家にとっては、あるいは混同されているかもしれない事実をきちんと整理した上で、バロックとモダンの実際の演奏における違いをわかりやすく述べているのは見事です。しかも、現在ごく普通に行われている奏法について「大きな歴史の中での過渡的なもの」と言い切っているのには、爽快感さえも感じることができます。
いくぶんお堅い山田さんの文体に比べて、奥田さんの語り口にはもっと親しみやすい味が込められています。常々この方の執筆されたものを読んだときに感じられる豊富なデータ量とともに、文章そのものから発散される軽妙なエンタテインメント性も存分に味わえて、最後まで飽きることがありません。彼が描こうとしたものは、おそらくヴァイオリンにかかわる世界の人物群像ではなかったのでしょうか。それは制作者、演奏家、教師、果ては楽器商にまで及びます。人名などでいくぶん煩雑で収拾のつかない部分を我慢しさえすれば、この楽器にまつわるさまざまな人たちの生き方までもが、詳細なイメージとして伝わってくることでしょう。ヨーゼフ・ヨアヒムを中心とした、音楽家間の交流、それによって生まれた名曲の話などは、ひときわ見事な筆致です。さらに、ヴァイオリン奏者以外には殆ど興味も持たれないような、いわば裏方とも言える教師たちの話も興味深いものです。あの破天荒な演奏で知られるナイジェル・ケネディでさえ、立派な教師なくしては世に出ることはなかったという事実には、この世界におけるアカデミックな系譜の一端を見る思いです。
この本の原稿がどういう形で作られたものであるかは知るよしもありませんが、同じような記述が何度も何度も出てくるのが、かなり目障りでした。なにかの機会に別々に書かれたものを集めてまとめたものなのではないか、という感じがしてしょうがありません。最近ではネットで細切れに書いたものを集めた本がよく見かけられますが、そういうものを読んだときに感じるまとまりのなさのようなものを、特に奥田さんのパートで感じられてしまったのは、ちょっと残念なことです。
最後に参考文献が載っていますが、その中にあの名著、石井宏の「誰がヴァイオリンを殺したか」が含まれていなかったのは、著者たちの見識のあらわれなのでしょうか。といっても、ヴァイオリンの価格やニスに関する文章が、多少及び腰だったように見えたのはただの思い過ごしでしかありませんが。
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by jurassic_oyaji | 2007-09-05 00:16 | 書籍 | Comments(2)
Commented by 奥田佳道 at 2007-09-06 01:07 x
この度は「知ってるようで知らないバイオリン
おもしろ雑学事典」をお読みいただき、
誠にありがとうございました。

ご意見、肝に銘じます。
ヴァイオリンではなく、バイオリン(ビオラも)は
ヤマハさん及びヤマハミュージックメディアさん
の統一表記で、前々から決まっているものだそうです。

小生の担当ページは稚拙でお恥ずかしい限りですが、
何かのために書いた原稿ではなく、今回新たに
まとめたものです。人物像や傾向、文体が重なったところがあり、
重ねてお恥ずかしい限りです。

続編の機会を、もしも戴いた際には
気をつけるように致します。

今後ともご教示を下さいますよう、
よろしくお願い申し上げます。
Commented by jurassic_oyaji at 2007-09-06 08:11
奥田様
コメントありがとうございました。
著者ご本人からコメントがいただけるなんて、恐縮至極です。
「バイオリン」という表記の謎も氷解しました。今後も緻密で的確な、それでいて読んでいて面白いという奥田様の文章を楽しませて頂きたいと思います。