おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
SMILE
c0039487_23552416.jpg




宮本笑里(Vn)
ソニー・ミュージック/SICC 10050-51(hybrid SACD,DVD)


「ライト・クラシック」と呼ばれるようなカテゴリーの音楽がもてはやされるようになったのは、1990年代初頭あたりからだったでしょうか。いかにも心地よく取っつきやすいそのような音楽は、「クラシック」を敬遠してきた人たちをも次第に取り込んで、コンサートに、CD発売にと大きな流れを形作ってきます。「クライズラー・アンド・カンパニー」のリーダーのヴァイオリニスト葉加瀬太郎などは、ソロとして活躍するようになってからもそんな流れの牽引役として大活躍してきたのはご存じの通りです。
ところが、そのような音楽は、実は「クラシック」とはなんの関わりもないものだということも、次第に明らかになってきます。「ライト・クラシック」を中心に構成されたさるテレビ番組で、その、殆どカリスマと化したヴァイオリニストがモーツァルトのヴァイオリン協奏曲を弾き始めたとき、それを聴いていた全国のお茶の間の人たちは唖然としたことでしょう。その演奏は、指は回らないわ、テンポはキープできないわ、音程は定まらないわで、どうひいき目に見てもアマチュアのものにしか聞こえなかったのですから。
そんな、すっかり「クラシック」というものをなめてかかって、最低限の修練すらも怠っている人でももてはやされるようなフィールドで展開されるべきものだと思われるアルバムが、数多くリリースされている中にあって、この宮本笑里というヴァイオリニストのファースト・アルバムは、ひと味違う魅力をたたえていました。笑里と書いて「えみり」なんて、素敵な名前ですね。この方は苗字でもお分かりの通り、世界的なオーボエ奏者をこのたび「引退」なさった宮本文昭氏の娘さんです。
音を聴けば、これは明らかに「クラシック」とは異なるファン層をターゲットにしたものであることが分かります。いかにも人工的な残響が、とてもふくよかにヴァイオリンを彩り、傷など全くないような甘く、美しい響きに満ちています。言ってみれば、アイドル歌手などの録音にありがちな過剰包装された音です。ところが、そんな甘ったるい音の彼方から、彼女でしかなしえないようなある種の主張が聞こえてきたのには、ちょっとびっくりしてしまいました。それは1曲目、大島ミチルの「Le Premier amour」というオリジナル曲での出来事です。いかにも引っかかりのない滑らかなテイストに満ちるその曲の中のある箇所で、彼女はちょっと音程を崩してまるでジプシー・ヴァイオリンのような雰囲気を出すという「表現」を行っていたのです。これは、こういう曲想の中で行われるとかなりインパクトのあるものです。もちろんそれは確実な主張となって伝わってきます。さらに、注意深く聴いていると、彼女はテンポもほんの少し揺らして、単調なメロディに陰影を加えてさえいるように感じられます。
カッチーニの「アヴェ・マリア」では、親子による共演が行われています。最初に出てくるのはお父さんのオーボエ、それはいつもの彼らしく、とことん熱いものを秘めた濃厚な演奏でした。それに続いて、2コーラス目には娘さんのヴァイオリンが聞こえてくるのですが、それが父親に負けないほどの情熱的なものであると同時に、父親よりもさらに洗練されたものであったのです。まるで、「お父さん、私みたいにちょっと力を抜いてみたらどうなの?」と、心温まる親子の会話を交わしているかのように、そのデュエットは聞こえてきました。
このパッケージは、CDの他にDVDも入っています。その映像から分かるのは、彼女の音楽に対する真摯な姿勢です。伏し目がちなその表情は、曲の内面だけを見つめているもの、聴衆に媚びるような目線や、口を半開きにして笑みをたたえるといった、「ライト・クラシック」のアーティストにありがちな見苦しい姿は、そこには微塵も存在してはいませんでした。
[PR]
by jurassic_oyaji | 2007-09-16 23:56 | ヴァイオリン | Comments(0)