おやぢの部屋2
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BACH/St Matthew Passion
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Teresa Zylis-Gara(Sop), Julia Hamari(Alt)
Theo Altmeyer, Nicolai Gedda(Ten)
Franz Crass, Hermann Prey(Bas)
Wolfgang Gönnenwein/
Süddeutscher Madrigalchor, Consortium Musicum
EMI/500941 2



1968年に録音されたゲンネンヴァインの「マタイ」が、EMIの3枚組セットのリイシューシリーズの一つとして再発されました。あまりこまごまとしたことを考えず、おおらかなバッハに接するのも良いかな、と買ってみたところです。健康食品もブームですし(それは「減塩ヴァイン」)。
まず、ソリスト陣の豪華さには目を見張ります。特にニコライ・ゲッダ、フランツ・クラス、ヘルマン・プライあたりはオペラで大活躍していたスターたちです。どんな「マタイ」になっているのか、ちょっと怖いような。そんないやな予感は、最初のテノールのアリア「Ich will bei meinem Jesu wachen」で、残念ながら的中することになります。まず、イントロのオーボエソロの吹き方が、今では考えられないほど情緒的であることに驚かされます。それは、最初の八分音符のGの音をたっぷりテヌートして情感を込めるというようなところに端的に表れています。その音は、殆どスタッカートで短く吹くという演奏に慣れている現代人にとっては、これはかなり違和感の伴う歌わせ方です。そして、それに続いて聞こえてくるゲッダの歌の、なんとおおらかなことでしょう。ベル・カントの極地とも言うべき輝かしい声で歌われるバッハは、まさにオペラハウスのステージで響き渡るのにこそふさわしい音楽でした。想像してみて下さい。もう亡くなってしまいましたが、あのパヴァロッティがバッハのアリアを歌っているようなものなのですから、これはすごいものがあります。
しかし、ひとまずご安心下さい。こんな場違いの演奏を聴かせているのはどうやらゲッダだけのよう、他の人はそれぞれにバッハにふさわしい真摯な歌い方を心がけているようですから。中でもアルトのユリア・ハマリの落ち着いた歌い方には思わず聴き惚れてしまいます。この方は確かカール・リヒターが来日したときに同行した歌手の一人、テレビで見た「ロ短調ミサ」の中の「アニュス・デイ」は、今でもはっきり覚えているほどのインパクトのある、素晴らしいものでした。ですから、このアルバムの中に出てくるアルトのためのアリアは、ことごとく美しく、心に響くものでした。冷静に聴いてみると、彼女はとてもキビキビしたリズム感を持っていることが分かります。決して自分の都合で拍をごまかしたりしないような正確さの上に立った、この深い声と表現は、まさに驚異的です。
レシタティーヴォは、とてつもなくゆったりとした流れの中で進んでいきます。ですから、その流れに必然性を感じられるだけの密度の高い歌い方が、エヴァンゲリストのテオ・アルトマイヤーと、イエスのフランツ・クラスには求められることになります。もちろん、この二人の演奏は完璧です。中でもアルトマイヤーは信じられないほどのテンションの高さで、ヒステリックの一歩手前のエヴァンゲリストを演じています。
ゲンネンヴァインに育てられた南ドイツ・マドリガル合唱団は、細かい情感よりは、大人数にまかせた「マス」の力で、この曲を押し切ろうとしているように聞こえます。コラールの入りなどは、メンバーそれぞれの息づかいまで感じられるほどの、切迫したものがあります。それは、敬虔なコラールよりはむしろ情景を表す合唱の場面で、これ以上はないほどの効果を発揮することになります。第1部のおしまいあたりの「Sind Blitze sind Donner」という激しい合唱には、度肝を抜かれます。
ゲンネンヴァインの指揮ぶりは、いかにも大時代的なものです。アリアの終わるかなり前から準備されている、大見得を切るようなリタルダンドは、どんな場面でも繰り返されるとかなり鬱陶しく感じられてしまいます。まるで、オペラを聴いているようなドラマティックな「マタイ」、こんな演奏が大手を振っていた時代もあったのですね。
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by jurassic_oyaji | 2007-10-04 19:55 | 合唱 | Comments(2)
Commented by ん。 at 2007-10-06 03:40 x
これ、タルコフスキーがサクリファイス(1986)で使った演奏ですね。
武満がリンクですばらしい解説をしています。
タルコフスキー本人も、武満ももはや亡く  嗚呼
Commented by jurassic_oyaji at 2007-10-06 11:21
んさん。いつもコメントありがとうございます。
映画は見てはいないのですが、あのアルトのアリアでしたら、効果的でしょうね。