おやぢの部屋2
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Zauber der Melodie
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Herbert Kegel/
Dresdner Philharmonie
DELTA/DC10101



先日HMVに行ってみたら、その週のベストセラーのボードがあって、そこにこんないかにも「名曲集」といった感じの安っぽいCDが置いてありました。タイトルが「メロディの魔法」ですし、このジャケ写の陳腐さといったらどうでしょう。ランキングはその時は2位、値段も決して安いわけではなく、何でこんなものがそんなセールスを上げているのか不思議だったのですが、指揮をしているのがケーゲル、彼にしてはずいぶん珍しい曲目だというところに惹かれて、買って帰ってきました(「買って帰れ」はアイーダ)。後で調べてみたら、確かにこのアルバムはかなりのいわく付きのものでした。なんでも、この中の曲が他の指揮者の演奏と一緒になったコンピレーションがあったそうで、その中のケーゲルの演奏がものすごいものだったことからベストセラーになってしまったそうなのです。そこで、オリジナルのアルバムが、HMVの要請でわざわざ日本向けにリイシューされることになったのだとか。これが録音されたのは1987年頃、もちろんデジタル録音ですが、リリースされたのはLP、ですから、このジャケットはそのLPのものなのだそうです。
確かに、その大評判となったアルビノーニの「アダージョ」は、ちょっとすごいものでした。録音を行ったのは当時の東ドイツの国営企業Deutsche Schallplattenでしょうから、おそらくドレスデンのルカ教会が会場のはず、豊かな残響に彩られたその弦楽器は、まるで氷のように冷ややかなたたずまいを見せていたのです。音楽の流れは「流麗」などとはほど遠い鈍くささ、一歩一歩踏みしめるようなその歩みは、まるで絞首台へ向かう死刑囚のようでした。確かに、これは強烈に胸を打つ演奏には違いありません。しかし、それは、決してハッピーな思いにさせられるものではありませんでした。
そんな風に、いかにも不器用そのものの音楽は続きます。グルックの「精霊の踊り」では、ソロのフルートのイモさ加減が花を添えてくれています。このような曲の演奏にはあるまじき無骨さと不快な音程、中間部からテーマに戻る際のカデンツァの、なんと醜悪なことでしょう。
ですから、グリーグの「過ぎし春」のような寂しい曲などは、まさに水を得た魚、サディスティックなまでに心の弱い部分を容赦なくかきむしります。テーマが薄い編成で出てくるところでテンポを急に上げるという「工夫」も効果満点、もしかしたら涙さえ誘われるかもしれません。
本来なら明るく爽やかに鳴り響くはずのグリンカの「ルスランとリュドミラ序曲」が、いとも重々しいビートで演奏された時点である程度の予想は付きましたが、エルガーの「威風堂々」の怪演はそんな心の準備をはるかに超えるものでした。不思議なテンポの揺らしと、意味不明のリタルダンド、例えば「プロムス」などで聴かれるノーテンキな曲と、これは果たして同じものなのか、と思わせられるほどの、殆ど冗談に近い演奏が、そこにはありました。
そして、トリをつとめるのがストラヴィンスキーの「サーカス・ポルカ」ときては、恐れ入るしかありません。いったい、何を考えてこんな曲を入れたのか理解に苦しむところ、シューベルトのとことんぶざまな引用が聞こえてくる頃には、なんとも自虐的な笑いがこみ上げてくるのを抑えることは出来ないはずです。
そんなわけで、これは本来の「名曲集」としては完全な失敗作、「アダージョ・カラヤン」のようにこれを聴くことによって癒されることなど決してあり得ません。そんなものがこれほどのセールスを上げるなんて、いかにクラシックファンの心が歪んでいるかが分かります。いや、もしかしたらこれはケーゲルが仕掛けたどす黒い罠だったのかもしれません。それにまんまと引っかかった私たち、もちろんそれを「誇り」と感じるのに、決してやぶさかではありません。
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by jurassic_oyaji | 2007-10-16 23:21 | オーケストラ | Comments(2)
Commented by dokichi at 2007-10-17 00:17 x
こんばんは
いつもこっそり読んでいますが
たまには、コメントをと思って書きます
うーん。
ココまで怪演ならある意味聞いてみたいなと
思うのもありますが
(話のネタとして)
購入してまでは・・というのが正直な所かな
威風堂々がプロムスで聞かれるものとあまりにも
違うんですよね
手元には置きたくないです・・
Commented by jurassic_oyaji at 2007-10-17 08:23
dokichiさん、いつもありがとうございます。
でも、これは日本の暗~いクラシックファンだったら、絶対喜ぶに違いない演奏ですよ。
怖いものを見るつもりで聴いてみてはいかが?