おやぢの部屋2
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The Elfin Knight
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Joel Frederiksen/
Ensemble Phoenix Munich
HM/HMC 901983



「妖精の騎士」と、なにか人気マンガのようなタイトルですが、それとは全く関係はありません。サブタイトルに「イギリスルネッサンスのバラッドと舞曲」とあるのが、その内容です。「妖精の騎士」というのは、そんなバラッドの一つのタイトルなのです。
19世紀の終わり頃にフランシス・ジェームズ・チャイルドという人が、300曲以上の古い伝承バラッドを収めた5巻なら成る「The English and Scottish Popular Ballads」という本を出版しました。その第1巻の2曲目に収録されているのが、「The Elfin Knight」というバラッドの13種類のヴァリアントです。地方や時代によって細かい歌詞の内容は変わっていますが、恋人に「縫い目のないシャツを作ってくれ」というような無理な仕事をお願いしたり、合いの手に「パセリ、セージ、ローズマリー、タイム」といったハーブの名前を連呼するという、あのサイモンとガーファンクルの ヒット曲「スカボロー・フェア」の原型となったものです。そのうちの3つのヴァリアントが、このCDには紹介されています。
演奏しているのが、ジョエル・フレデリクセンを中心とした、「アンサンブル・フェニックス」というミュンヘンの団体です。フレデリクセンは最初はアメリカでリュートと声楽を学びます。アーリー・ミュージックのグループで活躍するとともに、モンテヴェルディの「オルフェオ」などで、歌手としてのステージも経験しています。最近ではヨーロッパを中心に活躍、数多くのアンサンブルに参加した後、2003年に自らのグループ、「アンサンブル・フェニックス」を創設します。
その経歴を見て分かるとおり、フレデリクセンは歌と楽器の双方に秀でたミュージシャンですから、この時代の音楽を完璧に一人で伴奏しながら歌うという「弾き語り」を、高い次元で可能にしています。彼のバスの声は、半端なものではありません。陰影に富んだ歌い方で、恐ろしく幅広い表現を見せつけてくれます。一人だけの演奏で7分25秒を歌いきっている「Barbara Ellen」はまさに圧巻、シンプルなメロディの歌が16回繰り返されるというだけなのですが、歌い方の微妙なニュアンスの変化と、リュートの絶妙のフレーズでとても大きなものが迫ってきます。
このグループには、さらにもう2人の「歌える」プレーヤーが参加しています。テナーのティモシー・リー・エヴァンスと、カウンター・テナーのスヴェン・シュヴァンベルガーです。それぞれがソロを取ったり、2人、3人でハーモニーを聴かせてくれたりと楽しませてくれるのが「Lord Darly」です。ソロと同じスタンスですんなりコーラスに入ってしまうセンスがとても素敵、3人ともハーモニーのツボが完璧に決まっていて、浮き立つようなリフレインでの心地よさは絶品です。シュヴァンベルガーはとても多才な人で、楽器もフルート、リコーダー、テオルボ、リュートを弾きこなすというまさにマルチ・プレーヤー、あちこちで超絶的な技巧を披露してくれています。
ソロでしっとりと聞かせるナンバーとともに、総勢6人のメンバーが一緒になったときのノリの良さも聴きものですよ。何しろパーカッションを担当しているサーシャ・ゴトヴチコフという人のグルーヴがハンパではありませんから、それに乗せられたグループのテンションといったら。彼のリズムは殆どラテン・パーカッションのノリです。例えば8分の6拍子の「Greensleeves」では、ヘミオレが入って、まるで中米の「ウアパンゴ」(「ウェスト・サイド・ストーリー」の「アメリカ」のリズム)みたいになっていますから、これは盛り上がります。
ここでフレデリクセンが作り上げた音楽は、アーリー・ミュージックの訳語「古楽」から連想される、カビくさく古めかしいものでは決してなく、現代の息吹が存分に感じられるものです。もはや、こういうものに対して「古楽」という言葉を使うのは、完璧に実情に合わない時代になっています。それに気づかずに、未だにこの言葉を使い続ける人がいるのはこがくた(困った)ものです。
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by jurassic_oyaji | 2007-10-18 19:56 | 合唱 | Comments(0)