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RIMSKY-KORSALOV/Piano Duos/Scheherazade etc.
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Artur Pizarro(Pf)
Vita Panomariovaite(Pf)
LINN/CKD 293(hybrid SACD)



オーケストレーションの極致ともいうべき管弦楽曲、「シェエラザード」を作ったリムスキー=コルサコフが、それを自らピアノ2台のために編曲したバージョンが有るということにとても興味がわき、このSACDを買ってみました。あの色彩的なオーケストラの世界をピアノに移し替えるという大変な作業を、この職人的な編曲家はどのように処理しているのか、期待してみたっていいでしょう?
しかし、ポルトガルのピアニスト、アルトゥール・ピツァーロと、リトアニア生まれの彼の弟子、ヴィタ・パノマリオヴァイテによって奏でられた「シェエラザード」は、オーケストラ版の華やかさを知っている者にとっては、かなり拍子抜けのするものでした。この2人の演奏は、音の良さでは定評のあるこのレーベルのSACDによって、とてもクリアに響きます。それを意識したのかどうかは分かりませんが、彼らはとことん響きの美しさを追求しているかのように、ひとつひとつのアコードを丁寧この上なく演奏してくれます。2人のタイミングは完璧なまでに揃えられ、人間業とは思えないほどの精度を見せつけてくれているのです。
そんな澄みきった響きに慣れてきた頃には、彼らはこの編曲から、決してオーケストラの華やかさを引き出そうとはしていないことに気づくはずです。そもそも、リムスキー=コルサコフ自身は、オーケストレーションのスキルほどにはピアノ演奏には通じてはいなかったそうです。したがって、彼の編曲自体が、最初からあった音をそのままピアノに置き換えただけという素っ気ないもので、特別にピアノで演奏するための効果をねらった細工のようなものは何一つ加えていないという事情もあります。ハープの伴奏に乗って、シェエラザードのテーマがソロ・ヴァイオリンで披露されるという印象的な導入でのそのヴァイオリンの滑らかな音型はピアノのパルスだけで演奏されるとなんともゴツゴツとしたものに変わってしまいます。弦楽器によって演奏される蕩々とたゆとう波のような音型の上を、木管楽器が代わる代わる美しい歌を奏でるという場面でも、それぞれのパートを描き分けるだけの楽譜上の工夫がないことには、ピアニストにとっては手の施しようがなかったのかもしれません。
そんなわけで、彼らがひたすら淡々と音を連ねていった結果、元の曲とは似てもにつかない、殆どヒーリング・ピースのような「シェエラザード」が姿をあらわすことになりました。おそらくこれは、作曲家自身も気づくことの無かった、この曲の裸の姿だったに違いありません。逆にショッキングなほどに見えてくるのが、オーケストレーションの力の偉大さではないでしょうか。この間の抜けた音楽が、あれ程の輝かしいものに変貌するということ、そしてそれを成し遂げたリムスキー=コルサコフの偉大さこそを、ここでは思い知るべきなのでしょう。
同じ手法によったものでも、「スペイン奇想曲」の場合はとても素直にオーケストラと同じ感興が、2台ピアノからだけでも味わうことが出来ました。この曲の場合、みなぎるリズム感や、沸き立つようなグルーヴは、スケッチの段階からしっかり内包されていたことの証です。こちらの方は、余計な手を加えないほうが、よっぽど軽やかに聞こえるほどですし。
このアルバムにはもう1曲、リムスキー=コルサコフの奥さん、ナデージダ・ニコラエフナ・リムスカヤ=コルサコワ(ロシア語の場合、女性の名前は名字まで語尾が変化するというのが面白いですね)が編曲した「サトコ」が収録されています。ピアニストとしてはご主人より数段上回る腕を持っていた彼女の編曲は、元の曲の姿が殆ど分からないほど、ピアノの文法に満ちたものでした。もし彼女が「シェエラザード」を編曲していたならば、おそらくここで演奏されていたものとは全く別の姿を持つ音楽に仕上がっていたことでしょう。
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by jurassic_oyaji | 2007-11-28 20:28 | ピアノ | Comments(0)