おやぢの部屋2
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BACH/Organ Transcriptions
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Jan Lehtola(Org)
ALBA/ABCD 233(hybrid SACD)



「歴史的オルガンと作曲家」というシリーズの中の1枚でバッハ編、しかし、使われているオルガンは、フィンランドのビルダー、アールネ・ヴェゲリウスという人の作った1933年製の楽器ですから、ちょっと「歴史的」というには生々しすぎます。さらに、演奏されている曲目も、バッハのオリジナルではなく、20世紀の作曲家がオルガン用に編曲したもの、つまりトランスクリプションだったのです。と言うことは、ここでいう「歴史的」とは、バッハの時代ではなく、それが編曲された時代と「同時代」に作られた楽器による演奏という意味なのでしょうね。
実際、ヘルシンキの東部の町クーサンコスキの教会にあるヴェゲリウス・オルガンは、バッハの時代のオルガンとはかなり異なる響きで、ちょっとしたとまどいを与えられるものでした。レジストレーションのせいなのでしょうか、あるいはもともとパイプの種類がそうなっているのか、その音はなにか芯のない、フワフワとしたものでした。さらに、楽器の仕様を見てみると3段ある手鍵盤のうちの2段分は、「スウェルボックス」であることが分かります。これは、パイプを収納した箱に扉を付け、それを開閉することによって音の強弱が付けられるという機能です。これを使うことによって、滑らかなクレッシェンドやディミヌエンドをかけることが出来るようになります。もちろん、こんな機能はバッハの時代にはなかったもの、もう少し後の時代に、ロマンティックな表現を求められたことにより開発されたものです。
アルバムのラインナップは、まず、ドイツのオルガニスト、ヴィルヘルム・ミデルシュルテによる有名なヴァイオリン・ソロのための「シャコンヌ」。ブゾーニのピアノ編曲がよく知られていますが、この編曲はオルガンならではの、オーケストラのような多彩な響きが楽しめます。もうすぐお正月ですね(それは「オゾーニ」)。そして、これが世界初録音となる、シベリウスと同時代のフィンランドのオルガニスト、オスカル・メリカントによる「イギリス組曲」などの編曲や、マックス・レーガーによる「半音階的幻想曲とフーガ」などは、本来はチェンバロ独奏のための曲だったものです。
さらに、もう一人、フランスのオルガン音楽の大家シャルル・マリ・ヴィドールが加わることによって、一層のヴァラエティが見られるようになっています。彼の作品は1925年に初演された「バッハの思い出」というタイトルのものなのですが、これが単なる編曲ではなく、あくまでヴィドールの音楽に反映されたバッハ像というスタイルを取っているからなのです。それは、オリジナルもオルガン曲であった「Pastorale」を聴けばよく分かること、同じタイトルのかわいらしい作品の3曲目をそのまま使っているかに見えて、伴奏の音型などは微妙に異なっていることに気づくはずです。さらに、ソリスティックに歌うテーマに、先ほどの「スウェルボックス」で細やかなダイナミックスを付けていますから、バッハの曲とは思えないほどの濃厚な表情、殆どセクシーと言っていいほどの悩ましい語り口に変わっています。
やはり、バッハ自身によりカンタータ140番の中のコラールが「シューブラー・コラール」としてオルガン用に編曲された「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」も、ヴィドールによって「夜警の行進」というタイトルの全く別の肌合いを持つ粋な曲に変わっています。ヴィドールの時代にはバッハの真作として疑う人もいなかった「シチリアーノ」も、しっかり収められていますし、最後を飾るのが「マタイ」の終曲の大合唱、しかも、最後に長調の終止を付け加えるというあたりがヴィドールでしょうか。
確かに「時代」、もちろんバッハの時代ではなく、このオルガンが作られた20世紀初頭という「時代」をまざまざと感じることの出来る、ユニークなアルバムです。
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by jurassic_oyaji | 2007-12-02 20:12 | オルガン | Comments(0)