おやぢの部屋2
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Electric Vivaldi
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Gregory T.S. Walker(Elc Vn)
Eric Bertoluzzi/
Boulder Philharmonic Orchesra
NEWPORT/NPD 85569



ヴィヴァルディの「四季」といえば、ひところはさまざまの楽器で演奏されるのが流行ったものですね。お琴(正式には「箏」と呼ばれます・・・そうですか)や三味線で演奏した和ものとか、もちろんシンセサイザーのものもありました。確か、1977年頃に、フランク・ベッカーという日本在住の作曲家が、モーグの向こうを張ってローランドが開発したモジュール型のシンセサイザーSystem100を使って作ったものが、世界で最初のものだったのではないでしょうか。今でこそ、そんなものは簡単に作れてしまうようになりましたが、当時はもちろん単音しか出ないアナログシンセ、シークエンサーもせいぜい10音ぐらいしかセットできないという原始的な代物でしたから、それで「四季」全曲を作るのは大変だったことでしょう。
21世紀になっても、ユニークな「四季」は作られ続けています。この、グレゴリー・ウォーカーによる、エレクトロニック・ヴァイオリンのものなどは、久々に爽快な刺激を味わうことの出来る傑作でした。タイトルには「エレクトリック」・ヴィヴァルディとありますが、彼の楽器は「エレクトロニック」とクレジットされているので、これはちょっとした勘違いでしょうか。もちろん、その2つの言葉の違いは重要です。「エレクトリック」と言えば、単に電気的に増幅しただけという意味合いが強くなりますが、「エレクトロニック」となると、それこそシンセサイザーのように音色から、場合によってはピッチまで変えてしまえるようになるのですからね。
と、言葉にこだわったのは、ここでのウォーカーのヴァイオリンが、まさにそのような、完全にヴァイオリンの音色を捨て去った、殆どシンセサイザーのような音色とエンヴェロープで迫っていたからです。しかも、それは刻一刻変化して、ひとつのフレーズの中でも最初と最後では全く別の音になっているというぐらい、「エレクトロニック」なものだったからです。ただ、バックのオーケストラが基本的に生音で、かなりきっちり演奏しているというのが、安心できるところです。楽譜もかなりまとも、「春」や「冬」のゆっくりした楽章でのソリストの装飾も、言ってみればオーセンティックそのものの演奏になっていますから、骨組みはきっちり保たれ、その上で、殆どヴァイオリンとは判別できないような音色のソロ楽器の活躍が際だって聞こえてくることになるのです。そこに、オーバーダビングでウォーカーの奥さん、ロリ・ウォーカーのシンセサイザーが加わります。
それぞれの曲に先だって、ソネットの英訳が朗読されているのも面白い試みです。ただし、これがくせ者、その「朗読」は「ボコーダー」を使って行われているのです。つまり、言葉がそのままメロディやハーモニーになって、それだけですでに音楽になってしまっています。こちらの方が「四季」本体よりよっぽど面白かったりしますから、ちょっと微妙なところですが。
いえ、実はそれよりももっと面白いものが、ボーナス・トラックとして控えていたのです。ひとつは、「Bad Rap」という、タイトルだけ見るとまるでヒップ・ホップではないかと思わされるような曲ですが、これがまさにウォーカーの本領発揮といった趣の、きっちり作り込まれた音楽なのです。ちょっと「現代音楽」っぽい音列なども使いつつ、しっかりエンターテインメントとしてのツボは押さえているという、ある意味痛快な仕上がりになっています。
そして、最後に「Winter Remix」という、「冬」のリミックス・バージョンが収められています。リミックスというのは言ってみればコラージュ、さっき演奏したばかりの「冬」の素材を縦横に切り刻んで、そこに新たな要素も加えたパッチワークの世界が広がります。ですから、これを聴いてしまうとそれまでのまともな演奏がいかにも影が薄く感じられてしまいます。いっそのこと、最初から最後までこのスタイルでやって欲しかったと。
by jurassic_oyaji | 2007-12-06 19:33 | オーケストラ | Comments(0)