おやぢの部屋2
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MOZART/Don Giovanni
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Johannes Weisser, Lorenzo Regazzo(Bar)
Alexandrina Pendatchanska, Olga Pasichnyk,
Sunhae Im(Sop), Kenneth Tarver(Ten)
René Jacobs/
Rias Kannerchor, Freiburger barockorchester
HARMONIA MUNDI/HMC 901964.66



ミュージカルの世界には、「ショーストップ」という言葉があるそうですね。裸の女性の踊りではありません(それは「ストリップショー」)。実はこの言葉、微妙にニュアンスの異なる2つの意味で使われているようです。一つは文字通り大喝采でショーが一時中断されてしまうような状態、そしてもう一つはオペラの場合の「アリア」に相当する、聴かせどころのナンバーのことを指し示します。つまり後者は、「『キャッツ』の中の『メモリー』というショーストップは、素敵だね」といった具合に、かなりキザなシチュエーションでしか使うことはおすすめできないような単語です(そして、それに相づちを打ってくれるような女性には決して出会えることはありません)。なぜ「アリア」が「ショーストップ」なのかといえば、そういう音楽的に完成されているナンバーというものが始まると同時に、物語の進行はそこでストップしてしまうからなのです。そう、ミュージカル嫌いを公言してはばからないタレントが、「セリフをしゃべっていたと思ったら、突然歌を歌い出した」という、あの状況ですね。
もちろん、オペラの場合も、その状況は変わりません。イタリア・オペラではレシタティーヴォによって進んでいた物語は、アリアが始まるとともに一時停止、そんな不条理は気づかないふりをして、美しい歌に酔いしれるというのが、オペラ鑑賞の暗黙の「マナー」となっているのです。
モーツァルトのオペラに新鮮な息吹を与え続けているヤーコブスは、もしかしたら、そんな欺瞞的な「マナー」に耐えがたい思いを持っていたのかもしれません。今回の新録音「ドン・ジョヴァンニ」では、「ショーストップ」であるはずのアリアの最中でも、ドラマは滞ることなく継続されているという驚くべき場面を、いやと言うほど味わうことになるはずです。レシタティーヴォ・セッコは、楽譜に書かれているメロディを忠実に歌うというよりは、普通のセリフをしゃべっているものに、ほんの少し抑揚が付いているだけのように聞こえてきます。その分、通奏低音のフォルテピアノと、時にはチェロまでが自由自在に振る舞って、その「セリフ」に音楽的な愉悦感を与えています。
デュエットやアリアでさえ、隙あらば芝居を「ストップ」させては置くものかという演奏家たちの根性のようなものによって、ハッとするようなエキサイティングな瞬間がひっきりなしに訪れます。エルヴィラ役のペンダチャンスカは、まるで狂気のような鋭い表現で、せっぱ詰まった情景を訴えますし、ツェルリーナ役のスンヘ・イムはとことん細かい語り口で物語としてのリアリティを聴かせてくれています。ほんと、この人の芸の細かさは特筆もの、ドン・ジョヴァンニとのデュエット「Lá ci darem ma mano」では、最初はためらっているものが、即興的なカデンツァを挟んで嬉々として他のオトコについていこうと決心してしまう変わり身の早さを、見事なまでに歌の中で演じきっているのですからね。
演奏されている版は、基本的にウィーン版、後に殆ど歌われなくなるナンバーもすべて網羅した「完全版」、かと思うと、最後の大団円だけは残すという「折衷版」でした。もちろん、その際に削除されたプラハ版の曲も、すべて最後にまとめて収録されています。そこで、ドン・オッターヴィオのアリアも2曲とも聴くことが出来るわけですが、それを歌っているケネス・ターヴァーという人の柔らかい声には完全に魅了されてしまいました。この人は、モーツァルト・テノールとしては非の打ち所のない資質を持っているのでは。
買ってしまってから気づいたのですが、このアイテムはSACDでも出ていたのですね。分かっていれば迷うことなくそちらを買ったのに、残念なことをしました。こんな風にわざわざ2種類出すなどという無駄なことをせずに、ハイブリッドSACDで一本化してくれれば、こんなミスを起こすこともなかったのですが。
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by jurassic_oyaji | 2007-12-24 19:58 | オペラ | Comments(3)
Commented by 松鷹妙子 at 2008-07-15 12:18 x
2ちゃんねるの「バロックの歌姫」スレで見つけた
イム・スンハエで検索してこちらにお邪魔しました。
たいへん充実した内容ですね~~
Commented by jurassic_oyaji at 2008-07-15 16:48
松鷹さま、コメントありがとうございました。
またいらして下さい。
Commented by 松鷹妙子 at 2016-04-30 20:21 x
エゴサーチしたらここを見つけました。
facebookは登録していらっしゃいますか?
過疎ってるのでは?と心配です。