おやぢの部屋2
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CAGE/Complete Music for Prepared Piano
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Giancarlo Simonacci(Pr. Pf)
Ars Ludi Lab(Perc. Ens)
Nicola Paszkowski/
Orchestra V.Galilei
BRILLIANT/8189



ジョン・ケージのプリペアド・ピアノのための作品を全部集めた3枚組の「全集」が、1500円ちょっとで買えてしまうなんて、なんとも恐ろしい世の中です。こんな事でもない限り、彼のこの楽器のための全作品を聴く機会などありえなかったことでしょう。これで、「ソナタとインタールード」は3種類のアイテムが揃いましたし、今まで聴いたことのなかった「協奏曲」も聴くことが出来ます。
この全集の最初に収録されている(ほぼ作曲年代順に曲が並んでいます)史上初のプリペアド・ピアノのための作品「バッカナーレ」が、たとえ当初は打楽器アンサンブルを想定していたところが、演奏家の都合が付かずに急遽必要に迫られて今のような形で初演されたものであったにしても、高価なグランドピアノにねじや消しゴムを挟んで音を変えるという、言ってみれば子どものいたずらのような発想の「楽器」自体は、長年にわたって受け継がれてきた西洋音楽に対する冗談に近い挑戦だったことは明らかです。「室内オーケストラとプリペアド・ピアノのための協奏曲」での、そんな楽器を、それこそ西洋音楽の権化であるオーケストラと競演させようというアイディアは、ちょっとすごいことだとは思いませんか?そもそも、この曲が初演されたときには、オーケストラを指揮したのはプロの指揮者ではなく、ケージの長年の友人であるモダン・ダンスの振り付け師、マース・カニングハムだったというのですからね。もちろん、カニングハムにオーケストラの指揮者としての能力などはありませんから、どんなスコアなのかは非常に興味のあるところです。だれかがこっそり教えていたのでしょうか(それは「カンニング」)。
実は、この間ご紹介した「LPジャケット美術館」の中に、この曲を高橋悠治が演奏したNONSUCH盤のジャケットがあったのですよ。それを見て、はるか昔にこのレコードをお店で見つけておきながらつい買いそびれてしまった記憶が蘇ってしまいました。あの時に買っておけば、今ごろになって後悔しなくて済んだものを。
というわけで、意気込んで聴き始めたところ、やはりこれはとてつもない「冗談」であることが分かります。オーケストラの楽器はそれなりにスケールっぽいものとかハーモニーも聴かせているのですが、迎え撃つプリペアド・ピアノのなんという秩序のなさ。やはり、これは西洋クラシック音楽への果敢な挑戦を企ててはみたものの、最初から滑稽な結末を迎えるのは分かっていたというストーリーを描いていたものなのでしょう。
しかし、独奏者のシモナッチは、なぜか大まじめにきちんと自分のパートに意味を持たせようとしているところが、逆に笑えます。どうやらこの人は、ケージの仕掛けた冗談にはあまり興味を示さない(示せない)人のように思えてしょうがありません。それが端的に表れているのが、おそらくこの楽器のための曲としては最も有名な「マルセル・デュシャンのための音楽」なのではないでしょうか。この曲の最後の方で、オリエンタルなフレーズが何回も繰り返されます。普通はその中で一番高い音のプリペアが突拍子もない音色と音程なので、そこでショック(というか、笑い)を与えられるものなのですが、この人のプリペアはなんの違和感もわいてこないようなまっとうなものなのです。
こういう演奏を聴いていると、ケージが西洋音楽の中に打ち込んだはずのくさびが、いつの間にかそれ自体西洋音楽の大きな流れの中に組み込まれてしまっているような思いに駆られてしまいます。そう、50年も経てば、それはもはや「前衛」でもなんでもなくなってしまうという、これが歴史の重みというものなのでしょうか。
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by jurassic_oyaji | 2007-12-30 19:54 | 現代音楽 | Comments(0)