おやぢの部屋2
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SYRINX
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Simion Stanciu Syrinx(Panpipe)
Armin Jordan/
Orchestre de chambre de Lausanne
CASCAVELLE/VEL 3116



このジャケット、なんだか以前に見た記憶があると思ったら、実はかつてERATOから出ていたものでした。
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録音されたのは1985年、その頃はこのレーベルは確かRCAの傘下にありました。しばらくしてWARNERに吸収されてしまったと思ったら、いつの間にかもはや新録音は行わない実体のないものになっていましたね。フランスの由緒あるマイナー・レーベルが、親会社の意向でいとも簡単に消滅させられてしまい、その結果、音源は回り回ってこんなスイスのレーベルから新しくハイビット・マスタリングで登場することになるなんて、なんだかやりきれない思いです。
ここで演奏されている楽器は「ナイ」という、ルーマニアの民族楽器です。ただ、実際に「ナイ」という名前を聞くことはほとんどないことでしょう。一般的には、世界各地に広がっている同様の楽器の総称「パンパイプ」、あるいは「パンフルート」として、お馴染みのはずです。長さの異なる筒を音階順に並べただけという、いともプリミティブな構造、音を出すこと自体はそんなに難しいものではないようです。しかし、容易に想像できるように、隣り合っている音を出している分には簡単かもしれませんが、離れている音に素早く移るのは相当大変なことのはずです。例えば分散和音のような間の空いた音を滑らかに吹くなどというのは、よっぽど修練を積まない限りできっこないと思えてしまいます。
そんな楽器の演奏者として、これが録音された当時はルーマニアの「ザンフィル」という人が有名でしたね。というか、殆ど「パンパイプ=ザンフィル」といった感じで、まさにこの楽器の唯一無二の名人のように大活躍していたような気がします。ですから、同じ頃にシモン・スタンチウという人が、こんなクラシックのコンチェルトを吹いてしまったアルバムを見ても、「ザンフィルは、こんなことまでやってるんだ」ぐらいの感慨しかわきませんでした。もちろん、実際に音を聴いたこともありませんでしたよ。
そんなアルバムがCD化されたものを手にして、初めてパンパイプ版のモーツァルトやクヴァンツを実際に聴くことが出来ました。その前にまず、まるでデモンストレーションのように収録されていたのが、バッハの序曲第2番のフィナーレ、「バディネリー」でした。この曲こそ、いきなり細かい音符で分散和音が鳴り響くという、普通のフルートで吹いてさえ難しいものです。それを、スタンチウ(そのあとに自ら「シランクス」と名乗っているのですから、すごいものです)は信じられないほどの正確さで華々しく聴かせてくれました。いったい3度や4度の跳躍をどうやってこんなに素早くクリアできるのでしょう。
ですから、もはや技巧的にはクヴァンツであろうがモーツァルトであろうが全く不安を感じることはありませんでした。それは、両端の早い楽章では、まさに本来の楽器で演奏されたものと同じだけの高みにある素晴らしいものに仕上がっていたのです。そして、その上に、真ん中のゆっくりとした楽章では、なぜこの楽器を用いて演奏したかというアイデンティティの主張が加わります。例えばクヴァンツの第2楽章「アリオーソ」では、この楽器特有の哀愁に満ちた情感が、このドイツ・バロックの大家の旋律を借りて見事に広がっていました。そこには、単に物珍しさだけでクラシックに挑戦している民族楽器の姿などはさらさらありません。それは、もしかしたらフラウト・トラヴェルソで演奏されたものとは全く別の次元での、完成された音楽の形だったのかもしれません。
そう、今でこそ「クラシック音楽」なんて威張っていますが、元をたどれば数ある民族音楽のひとつの形に過ぎないのですからね。
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by jurassic_oyaji | 2008-01-03 20:13 | フルート | Comments(0)