おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ | ログイン
I Sing the Birth
I Sing the Birth_c0039487_20185724.jpg




New York Polyphony
AVIE/AV 2141



アーリー・ミュージックの分野には、数々の素晴らしい才能があーりーますが、そこにまた一つ輝く星のようなグループが加わりました。それは2006年に結成されたばかりというまさにフレッシュな男声4人組、「ニューヨーク・ポリフォニー」です。メンバーはカウンターテナー、テナー、バリトン、バスバリトンという声部構成、それぞれにユニークなキャリアを持った人ばかりです。というか、ジャケットの写真を見てみるととてもクラシックのコーラスグループとは思えないような、ちょっとあぶないルックス、いったいどこからこんな繊細な音楽が出てくるのかと思えるほどのミスマッチですよ。スキンヘッドで(輝いてます)、まるでギャングのような鋭い目つきの恐ろしい人がいるかと思えば、熊のような巨漢で眼鏡ばかりが異様に小さくみえる人とか、ものすごいインパクトです。
スキンヘッドはカウンターテナーのウィリアムス、すでに数多くのアメリカ国内のアーリー・ミュージックのグループに関わってきているその道のスペシャリストです。テナーのシルヴァーはイギリス出身、幼い頃からウェストミンスター寺院の聖歌隊のメンバーを務め、後にはケンブリッジのトリニティ・カレッジやセント・ジョンズ・カレッジといった名門で歌っていたという、まさにイギリス合唱音楽の伝統をしっかり身につけた人です。バリトンのディスペンサは、なんとジュリアード出身、ソリストとして幅広く活躍していました。そして、バスバリトンのフィリップス(これが熊)は、オペラ歌手として多くのオペラハウスで歌ってきた人です。
そんな4人のアンサンブルは、例えばデビューしたばかりの頃のキングズ・シンガーズのような、緊密なハーモニーと、軽やかな音色を持ったものです。カウンタテナーのウィリアムスの声が、決して飛び出さずに他のメンバーととても気持ちよく溶け合っていて、それは心地よいサウンドを醸し出しています。そして、その心地よさが、決してただのヒーリングに堕していないところが素敵です。というのも、このグループはその4人以外に、「ミュージカル・アドヴァイザー」という形で結成にも関わっているマルコム・ブルーノという人が、しっかり音楽的な方向付けをしているのです。ちょうど、このようなグループの草分けだった「プロ・カンティオーネ・アンティクヮ」におけるブルーノ・ターナーのような存在として、しっかりと格調高い音楽性をもたらしているのでしょう。
このアルバムは、ちょっと時期を外されてしまいましたが、クリスマスのための曲を集めたものです。もちろん、陳腐なクリスマスソングなどは1曲も登場しません。そのコンセプトは、大昔のプレイン・チャントから、出来たばかりの現代作品という時代を超えた視点、そして、シンプルなフォーク・チューンから複雑なポリフォニーという、曲の構成を超えた視点、その二つのものクロスさせた壮大な視野に立っているというのですから。
そうは言っても、基本的にどの曲にも感じられるのは中世やルネサンスといった時代のテイストです。アルバムの冒頭に収められた、アンドリュー・スミスというイギリスの若い作曲家が作った彼らの委嘱作品も、プレイン・チャントを導入に持つそんな雰囲気をたたえた曲です。緩やかな流れを持ってはいても、随所に現れる不協和音が、絶妙のアクセントとなっています。パレストリーナ、クレメンス・ノン・パパ、ウィリアム・バードといった名匠のマスターピースに混じって歌われる名もないトラディショナルでさえも、穏やかな中にしっかりとした主張が込められていることが、最後まで緊張感をもって聴き通すことの出来た最大の要因だったのでしょう。
彼らがこの先どのような路線を進むのか、楽しみに見守りたいところです。多くのグループがたどったような安易な道は決して取ってはもらいたくないものです。
by jurassic_oyaji | 2008-01-09 20:19 | 合唱 | Comments(0)