おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
WAGNER/Tristan und Isolde
c0039487_2326027.jpg
B. Nilsson(Isolde), W. Windgassen(Tristan)
G. Hoffman(Brangäne), H. Hotter(Kurwenal)
Arnold van Mill(König Marke)
Wolfgang Sawallisch/
Chor und Orchester der Bayreuther Festspiele
WALHALL/WLCD 0213



普段はヒストリカル物に手を出すことなどまずないのですが、最近何かとマイブームの「トリスタン」の、一応新譜なので(当然リイシューでしょうが)、聴いてみることにしました。実は、バイロイト音楽祭のサヴァリッシュは昔から1962年の「タンホイザー」(PHILIPS)でさんざん聴いていたものですから、ある種の期待もありました。しかし、これはそれよりちょっと前の1957年のライブ、もちろんモノラルです。もう著作隣接権も切れているのでしょう、レーベルには「パブリック・ドメイン」を現す「PD」の文字が記されています。その分値段もお手頃、4枚組CDが3000円ちょっとでした。
そんなものでしたから、録音面には最初から期待はしていませんでした。しかし、いきなりノイズだらけの音が聞こえてきたのには驚いてしまいました。なに!これって板起こし?!さいわいそれはスクラッチ・ノイズではなく、ステージや客席のノイズだったのですが、それにしても前奏曲が始まっているというのに、この騒々しさは一体何なのでしょう。ステージで歩き回る足音や、咳払いなどが、肝心の演奏を押しのけて盛大に聞こえてくるのですからね。しかも、その咳払いはマイクに恐ろしく近いところで発する音のよう、どんなところにマイクを立てていたのか、知るのが怖いほどです。
この録音は、サヴァリッシュにとっては初めてバイロイトに登場したという記念すべき年のものでした。確か、その時の34才というのは、史上最年少の大抜擢だったはずです。しかし、やはり海千山千のピットでは、この「若手」はかなり苦労を味わったことでしょう。勢いはあるのですが、それがオーケストラにはなかなか伝わらないもどかしさが、随所で感じられてしまいます。そもそも、アインザッツひとつとってみても、とてもオーケストラを掌握しているとは言えないようなものですし。
しかし、キャストはまさに贅沢そのもの、なにしろハンス・ホッターがクルヴェナールですからね。彼はこの年には「指環」でヴォータンも歌っていたというのですから、ちょっとすごいことです。しかし、やはり彼にとってこの役は「軽すぎ」という感は否めません。というより、どんな役でも深刻に振る舞ってしまうこの人には、ちょっと無理があったのかもしれません。もちろん、サヴァリッシュがこの時点でも大ベテランだったこの歌手の気まぐれなルバートに合わせることなどは、そもそも出来るわけもありませんでした。ですから、ここではニルソンとヴィントガッセンという黄金コンビの、まさに「旬」の声を大いに堪能しようではありませんか。この時にはニルソンはまだ30代、ヴィントガッセンにしても40をちょっと過ぎたあたり、まさに最高のコンディションで聴くことが出来ますよ。ニルソンなどには「初々しい」とさえ感じてしまうほどの素直さまであるのですからね。彼らの突き抜けるような力のみなぎる声を聴いていると、いつしか会場のノイズや、そしてちょっと危なげなオーケストラなどは全く気にならなくなってきます。それは、ブランゲーネ役のグレース・ホフマンのリアリティあふれる歌唱とともに、まさにドラマとしての推進力がそこには存在していたからなのでしょう。
驚いたことに、この半世紀前の録音からは、現代のPCM録音をも凌ぐほどの、歌い手の息吹のようなものをまざまざと感じ取ることが出来ました。プリミティブな録音機材だからこそ、ストレートに情報が伝えられるのでしょうか。同時にそれは、このときの祝祭劇場の客席の空気まで、咳払いの音とともに伝えてくれているのです。ヒストリカルもなかなかいいものですね。かと言って、それをヒステリックに主張するほどのものでもありませんが。
[PR]
by jurassic_oyaji | 2008-01-17 23:27 | オペラ | Comments(0)