おやぢの部屋2
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MOZART/The Magic Flute
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Joseph Kaiser(Tamino), Amy Carson(Pamina)
Benjamin Davis(Papageno), Silvia Moi(Papagena)
Rene Pape(Sarastro), Lubov Petrova(Q.o.N.)
Kenneth Branagh(Dir)
James Conlon/
Chamber Orchestra of Europe
SHOWGATE/PCBE-52728(DVD, HD DVD)



昨年の7月に日本でも公開されたケネス・ブラナー監督による映画版「魔笛」がDVDになりました。なにしろ「魔笛」と言えばオペラハウスでもさまざまな読みかえがなされるのは普通のことになっている作品ですから、映画監督であればさらに自由な発想で作り替えてしまうことも可能でしょう。このような映画による「魔笛」で、思い出されるが1975年のベルイマンによる作品ではないでしょうか。あそこではドロットニングホルムのオペラハウスを舞台にして、あくまで「オペラ」にこだわるかに見せて、映画ならではのファンタスティックな世界を作り上げていましたが、この女性下着のような名前(それは「ブラジャー」)の名優でもある監督の作品では最初から映画でしかなしえない独特の設定が用意されていました。テキストもベルイマン版ではスウェーデン語に訳されていたように、ここでも英語に変わっており、さらに内容までもその設定に合わせて微妙に変えられています。
DVDのエクストラ・フィーチャーとして、メイキングが収められているのはお約束ですが、ここではそれはこの作品の目指すところを知る上で非常に重要な資料となっています。そのドキュメンタリーの前半で描かれるのは、サウンド・トラックを録音するシーンです。ロンドンのアビー・ロード・スタジオという有名な場所での録音セッション、コンロンの指揮で行われているそのリハーサルで、最も精力的に歌手や合唱団に注文を出しているのは、ブラナー監督その人でした。本来そういうことはすべて指揮者に任せるものなのでしょうが、ブラナーの場合はそうではありません。吹き替えではなく、本人が歌ったものに合わせて演技をしているこの映画では、歌そのものがすでに演技をするときのセリフと何ら変わらないもの、そこで、納得のいくまでテキスト(ブラナー自身が脚本も書いています)の表現に対して要求するのは、至極当然のことなのでしょう。そこで、その要求は英語を母国語としていないルネ・パーペに対してはかなり手厳しいものにならざるを得ません。たった一つの単語の発音を執拗に繰りかえさせられて最後にはキレてしまうという、「ウェスト・サイド・ストーリー」でのホセ・カレーラス状態がここで見られるのですから、その生々しさったら。
うれしいことに、そこまでテキストを改変しているにもかかわらず、音楽に関しては完全に楽譜通りに演奏されています。ベルイマンでさえ、「映画の都合」でかなりのカットや入れ替えを行っていましたが、ブラナーの場合はたぶんセリフの部分を切りつめたのでしょう、2時間を少しはみ出るぐらいできっちり撮り終えています。これはかなり重要なポイントです。モーツァルトの音楽に対してこれだけ真摯な態度を貫いていたからこそ、彼の独特のイマジネーションの世界にも安心して浸ることが出来たのでしょう。そこが、同じ英語訳であっても、無惨なカットで作品を台無しにしてしまったジュリー・テイモア(「ライオン・キング」で有名なミュージカル演出家。一昨年METでそんな独りよがりな「魔笛」を上演しました)との最大の相違点です。
もっとも、ブラナーは第1幕のフィナーレでタミーノと対面するはずの弁者のナンバーを、ザラストロが歌うように変更しています。これは、このプロットからは至極当然の措置でしょう。逆に、これはオペラファンには新鮮な驚き、次のシーンでさっき会ったのが実はザラストロ本人だと知ったタミーノに向けられたパーぺの悪戯っぽいウィンクは、そんなオペラファンをからかっているもののように思えてなりません。
初回限定特典として、本編のHD DVDが同梱されています。これは、もはや完全にBDに水を空けられてしまったHD DVD陣営の最後の抵抗なのでしょうか。CGを駆使して、愛と叡智が諍いのない美しい世界を取り戻すのだというテーマを謳いあげたこの作品の精神とはあまりにもかけ離れたその発想には、笑うほかはありません。
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by jurassic_oyaji | 2008-01-31 20:25 | オペラ | Comments(0)