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善き人のためのソナタ
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 きのうWOWOWで見たのが、「善き人のためのソナタ」というドイツ映画です。この邦題だけだとなんだか音楽映画のようですが、オリジナルのタイトルは「Das Leben der Anderen」、「他の人の生活」という意味で、全く音楽とは関係がなくなってきます。これは、まだ東ドイツという国家体制があった頃のお話、「シュタージ」という、体制を支えるための監視機構の一員であったヴィースラー大尉という人が主人公です。彼は、反体制思想の持ち主である疑いのある劇作家ドラエモン、ではなくてドライマンを監視するために、その家に盗聴器を仕掛け、1日中盗聴するという任務を負わされます。そこで、「他人の生活」をつぶさに味わうことになるのですね。
 この映画は、そんな、今まで殆ど知られることのなかった旧東ドイツの監視社会というものを初めて明らかにしたものとして大きな話題を呼んだそうです。確かに、その実態は驚くべきものでした。私たちにとっては、あのころはとりあえずドイツは西と東に分断していたのだな、ぐらいの認識しかなかったのですが、ここまで徹底した監視体制のもとに、反社会分子の抹殺が図られていたというのは、ちょっと信じがたいものがあります。この国に対しては、音楽を通じて馴染みがあったもので、有名な指揮者やオーケストラ、そして国営のレーベルなどが、とても上質な音楽を提供してくれていました。それに携わっていた人たちは、こんな体制の中で活動を強いられていたのですね。
 物語としては、ヴィースラーが盗聴を続けていくうちに、次第にドライマンの「生活」に共感を覚えるようになっていく、というのがメインのプロットになっています。それは思想的な自由さだけではなく、ドライマンとその恋人の女優ジーラントとの愛情の現場(つまり、えっち)を盗み聴きしていく中での、愛情に対する憧憬も含まれているのでしょう。それに関して、ヴィースラーが自宅に娼婦を呼ぶ(デリヘル、でしょうか)シーンが、悲しいほどに胸を打ちます。
 そして、決定的なファクターが、ドライマンが自殺することになる演出家から誕生日のプレゼントにもらったピアノ曲の楽譜です。その曲のタイトルが「善き人のためのソナタ」。自殺の報を受けてドライマンがピアノでその曲を弾いているのを聴いたヴィースラーは、まさに感動にうちふるえるのですね。そして、彼の取る反体制的な行動を全て黙殺することを決心するのです。ただ、この映画の中で最も重要なこの曲の扱いが、ちょっといい加減なのが、私あたりには気になってしまいます。ペータース版のその出版譜がアップになるのですが、そこには作曲者の名前は書かれてはいなくて、なぜか「ピアノ曲集」のようなサブタイトルが付いているのですよ。これはちょっとおかしな設定です。もちろん、その曲が1度聴いただけで感動を呼び起こすというのは、映画ならではのお約束でしょう。
 そんなどうでも良いことは無視するとして、結局「壁」崩壊後にドライマンはヴィスラーによって救われていたことを知ることになります。そして、「善き人のためのソナタ」という本を、彼に対する献辞を添えて出版します。
 その時には細々と新聞配達をしながら生活をしているヴィースラーが、偶然本屋でこの本を見つけ、それを買おうとレジに行ったところ、店員が「贈り物ですか?」と聞きます。それに対するヴィースラーの答えがすごくしゃれています。
「いや、この本は私のためのものです」
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by jurassic_oyaji | 2008-02-21 21:21 | 禁断 | Comments(0)