おやぢの部屋2
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WAGNER/Tristan und Isolde
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Deborah Polaski(Sop)
Johan Botha(Ten)
Bertrand de Billy/
Radio-Symphonieorchester Wien
OEHMS/OC 626(hybrid SACD)



「トリスタンとイゾルデ」から、タイトルロールのデュエット部分だけを抜き出して集めたという、ちょっと変わったアルバムです。ライブ録音ではなく、おそらく放送用にスタジオで録音されたものなのでしょう。実は、このアルバムは「デュエット集」とは言っても、時折ブランゲーネやクルヴェナールもしっかり登場していますから、もともとは全曲を録音していたのではないでしょうか。そういえば、以前にイゾルデ役のポラスキのソロアルバムという形で、別のハイライト盤がリリース(OC 602)されていたこともありました。
ここでのオーケストラはウィーン放送交響楽団。かつては「オーストリア放送交響楽団」と言っていた、オーストリア放送協会所属のオーケストラです。今ではド・ビリーの指揮の下でこのOEHMSレーベルを中心に活発にアルバムを制作しています。とは言っても、ウィーンにある他のオーケストラ、ウィーン・フィルやウィーン交響楽団に比べれば、まだまだ知名度が低いのは、否めない事実でしょう。
実は、このアルバムを聴く前に、ガーシュインとラヴェルのピアノ協奏曲をカップリングしたものを聴いていたのですが、その時に感じたこのオーケストラの印象は、他のウィーンの団体が持っている「伝統」のようなものとはちょっと異なる、いかにも放送オケらしい軽快なフットワークでした。特にそのリズム感の良さはガーシュインなどにはうってつけ、音色も華やかで軽やかなものでした。
ですから、この「トリスタン」に欠かすことのできないドロドロとした情念のバックグラウンドとしての音楽を果たしてこのオーケストラが作り出すことができるのか、一抹の不安がありました。そして、その不安は現実のものとなったのです。あまりに明るいそのオーケストラのサウンドは、この不倫劇にはかなり違和感のあるものでした。それは、同じ不倫でも名古屋の放送局あたりが昼間に放送しているドラマのような、どこか嘘くさく、張りぼてのような感触を持ったもの、やはりここは横溝正史や江戸川乱歩のようなおどろおどろしいテイストが欲しいところです。カラメルソースも必要でしょう(それは「プリン」)。第1幕の最後で、二人が媚薬を飲みほした瞬間の沈黙の間に流れる前奏曲の回想の、なんと屈託のないことでしょう。
しかし、その屈託の無さの中に、トリスタン役のボータの声とはなにか共通するような方向性を感じたのは意外な発見でした。輝かしく力強い、まさに理想的なヘルデン・テノールでありながら、彼の声にはある種の軽やかさもあります。それは、決して歌手の都合でテンポを伸ばしたりリズムをごまかしたりするということのない、極めてクレバーな特質です。さらに、いともあっさりと難しい高音をクリアしてしまうスキルは、正確な音程とも相まって、一抹の清涼感すらも与えてくれています。
ところが、イゾルデ役のポラスキが、この、とりあえず調和の取れた世界を乱しにかかります。彼女はまさに伝統的なソプラノ・ドラマティコ、いわゆるワーグナー・ソプラノとして、このチームに加わっていました。良く響く声、そしてそれをさらに煌びやかに飾る壮大なビブラート、時には音程さえも犠牲にしかねないまさに「ドラマティック」な表現、それらのものはあるいは一昔前のバイロイトあたりではさぞや聴き映えのするものだったことでしょう。しかし、この、ド・ビリーとそのオーケストラによって用意された音響空間では、それはいたずらに居心地の悪さを誘うものでしかありませんでした。
第2幕第2場の後半で登場するブランゲーネ役のハイディ・ブルンナーの声の方がこの場のイゾルデとしてはより相応しいと思えた時点で、このアルバムのキャスティングは間違っていたことが明らかになったのです。
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by jurassic_oyaji | 2008-02-24 22:21 | オペラ | Comments(0)