おやぢの部屋2
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The Reichsorchester
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Enrique Sánches Lansch(Dir)
ARTHAUS/101 453(DVD)



「ベルリン・フィルと子どもたちRhythm is it!」というドキュメンタリー映画を作ったエンリケ・サンチェス・ランチ監督による、同じベルリン・フィルを扱った記録映画です。あちらはラトルの指揮による最近の演奏が収録されたものですが、こちらの方は「第三帝国」、つまりヒットラーによって支配されていた時代のベルリン・フィルの演奏が中心になっとらー。その頃ですと、なんと言ってもメインはフルトヴェングラー、そしてクナッパーツブッシュやチェリビダッケの貴重な映像を見ることが出来ます。
しかし、あいにくなことに、これは演奏を楽しむためのDVDでは決してないことは、強調しておかなければなりません。要するに、このフィルムは、そんなナチスの時代にベルリン・フィルというオーケストラはどういう状況に置かれていたのかということを、その時にそのオーケストラの団員だった人や、団員の遺族などのインタビューによって明らかにする、というものなのです。そして、その間に「貴重な」当時の映像が挿入されるだけ、もちろん、それらの映像はきちんと全曲をまとめて聴けるようなものではなく、場合によってはインタビューの都合に合わせて全く無関係なものが使われていることもありますから、あくまで添え物としてとらえるべきものです。
ここから浮き出てくるオーケストラの姿は、なんとも言い難いものでした。つい先日のニューヨーク・フィルの「オーケストラ外交」ではありませんが、ヒットラーは徹底的にこのオーケストラを政治目的に使い切っていたことが良く分かります。もちろん、そのためにはレパートリーからはユダヤ人の作曲家の作品は排除され、ユダヤ人の団員がオーケストラにとどまることも許されないのは当然のことでしょう。そのような「ナチ化」されたオーケストラは、そこで信じられないほどの優遇措置を与えられることになりました。唯一このオーケストラだけが団員の兵役を免除され、戦時中でもしっかりコンサートの場を提供されていました。もちろん、外国への演奏旅行も敢行されます。それらは全て、ドイツ帝国(Deutsches Reich)のオーケストラが奏でるドイツ帝国の音楽の素晴らしさもって、ドイツ帝国そのものの偉大さを世界に知らしめるという、明確なプロパガンダに他なりませんでした。
歴史的に動かしがたいそのような事実に対して、元団員たちのあまりにあっけらかんとしたコメントは感動的ですらあります。「私たちは、あくまで良い音楽を演奏したかっただけだ」、「ベルリン・フィルがナチのオーケストラであったことは一度もない」など、全く罪のないコメントが延々と続きます。その合間に流れるのは、ゲッペルスの扇情的な演説に導かれて、ハーケンクロイツが立ち並ぶ会場で演奏している団員たちと、陶酔した面持ちでそれに聴き入っている聴衆たちの姿です。これを見てコンサートだなどと思う人がいるでしょうか。それはまさにひとつの思想を大衆に植えつけようとしている洗脳集会に他なりません。
そんな、あまりにも世間知らずな音楽バカを描いた退屈な映画が、終わり近くでどんでん返しを迎えます。それは、この中で最も長い時間インタビューが紹介されていた元コンサートマスター、ハンス・バスティアーン(インタビュー当時は93歳)の言葉です。「敗戦間近、傷病兵たちの前で行った演奏会で突然『私たちは、今まで何をやってきたのだろう』という恥ずかしさがこみ上げてきました」。
見事という他はありません。この瞬間にこの映画は人間の良心を見事に描ききっていました。その言葉に呼応するかのように、最後で流れるベートーヴェンの第5交響曲は、第3楽章のクライマックスでピタリと止むのです。それに続く勝利のファンファーレは、決して鳴ることはありませんでした。
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by jurassic_oyaji | 2008-02-28 19:56 | 映画 | Comments(0)