おやぢの部屋2
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混声合唱のための組曲「津和野」
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安野光雅 作詞
森ミドリ 作曲
カワイ出版
/1248
ISBN978-4-7609-1248-3



「おやぢの部屋」では初めて、楽譜のレビューです。合唱曲は良く取り上げているので、その楽譜を紹介することがあっても別におかしくはないでしょう?
合唱曲などには縁のなかった作曲家の森ミドリさんが、2007年にこんな「合唱組曲」を作るようになったのには、一つのきっかけがありました。それは2002年のこと、そのちょうど1年前に島根県の津和野町に開館した、その町出身の絵本作家安野光雅さんの作品が展示されている「安野光雅美術館」を訪れた森さんは、ロビーに掲げられていた一つの詩にたちまち釘付けになったといいます。
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故郷津和野の情景を見事に読み込んだ(「鷺舞い」というのは、津和野の伝統芸能です)安野さんのこの美しい詩に感動した森さんは、その場でこの詩を書き写し、即座にそれに曲を付けてその日に別の場所で行われたコンサートで披露したということです。七・五調のちょっと古風な四行詩、(7+5)×4=48ですから、全部で48文字が使われているのですが、実はそれは「いろは48文字」を、すべて重複なく使い切ったという極めて技巧的なものだったことを森さんが知るのは、ずっと後になってからのことだったそうです。そんな仕掛けを知らなくても、誰にでも津和野を想う気持ちが伝わって来るというのが、安野さんのすごいところなのでしょう。
この詩にさらに続きを書き足して出来上がった「津和野の風」という曲が、安野、森チームによる最初の作品となりました。それ以後、このチームは多くの曲を作り上げることになり、その成果がなんと1冊の絵本にまとまってしまいました。ええ、ほんとですよ。それは「雲の歌 風の曲」という絵本。詳細はこちらをご覧下さい。それらは、安野さんの暖かい言葉と、森さんの親しみやすい、どこか郷愁を誘うメロディとによって、あたかも現代の「わらべうた」のようなものとなっています。
2006年に、さる合唱団からの委嘱で、その中から「津和野の風」と、津和野弁による素朴な子守唄「つわのの子守唄」が合唱曲に編曲されました。さらに翌年には、津和野に関連したもう5曲を加え、独立した混声合唱組曲として再構成されることになります。うち2曲は同じ絵本からの「忘れ旅」という、「シュッシュポッポ」と蒸気機関車の擬音が入った明るい曲と、「天神山の子守唄」という、狸が子守に化けるというユーモラスな曲です。そして、書き下ろしのものが3曲、組曲全体のイントロとなる「山の向こうは」、安野さんの小さな頃の思い出がからむ「つえ子の歌」、そして、もう一つの「いろは歌」である、「つわのいろは」が加わります。
この組曲は、その合唱団、「東北大学男声OB合唱団・Chor青葉」によって、2007年3月11日に東京オペラシティのコンサートホールで全曲初演されました。さらに、その1週間後の3月17日には、この曲の発端の地である津和野の安野光雅美術館でも、同じメンバーによって「現地初演」が行われました。
その後も、同年7月29日には東京のトッパンホールで再演、作品としての存在は確固たるものとなります。そして、今回の出版によって、それはさらに大きな広がりを持つことになるはずです。それは、とかく敬遠されがちな「日本人による合唱作品」への新しい挑戦ともなるものだからです。日本の合唱の世界というものは、なぜか普通の音楽愛好家からは遠いところにあるように感じられます。そこで演奏されている曲はお客さんも、そして歌っている人たちも、みんな眉間に皺を寄せて一生懸命苦行に耐えている、そんな感じがするものが少なくはないような気はしませんか?
しかし、この曲に限ってはそんな心配は無用です。なにしろ、津和野演奏会の時の打ち上げでは、津和野町長や美術館長の前で、「天神山の子守唄」の中にあるにぎやかな狸囃子の部分が「振り」を付けて演奏され、やんやの喝采を浴びたのですからね。
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by jurassic_oyaji | 2008-03-29 19:58 | 書籍 | Comments(0)