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Enchantment/Music for Flute and Piano
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Kenneth Smith(Fl)
Paul Rhodes(Pf)
DIVINE ART/dda25054



ケネス・スミスというフルーティストは、今現役で活躍しているプレーヤーの中では最も共感出来るものを聴かせてくれる人です。ボーンマス交響楽団に10年間在籍したあと、1983年からはロンドンの名門オーケストラ、フィルハーモニア管弦楽団の首席奏者となります。多くのプロのオーケストラでは管楽器奏者には複数の首席奏者のポジションがあるものですが、このオーケストラの場合は一人しか認められていません(現在は変わっているかもしれませんが)。ですから、その年以降に録音されたこのオーケストラのCDを聴いて、フルートの音が耳に残ったとすれば、それはケネス・スミスの音だということになります。それは、膨大な量に及ぶことでしょう(「ケネスブック」に載ったりして)。彼の音は、決して他の楽器を威圧するようなものではなく、透明な音色と、気品のあるビブラートで、オーケストラ全体の音色に確かな輝きを与えています。
そんな多忙な(首席奏者が1人ということは、すべての演奏会に出演するということになります)オーケストラプレーヤーとしての職務の合間を縫って、彼はASVなどのレーベルに1990年代に多くのソロアルバムも録音しています。最近、新しい録音がないと思っていたら、マルピーが2007年という、こんなアルバムがリリースされました。しかし、いそいそと購入して中を見てみたら、録音は実は1994年と1996年だと分かって、ちょっとがっかり。でも、演奏されている曲は初めてのものばかりですから、なんの問題もありません。と言うより、彼の全盛期とも言える時期のものですから、かえって良かったのかも。
このアルバムは、フランスで活躍していた作曲家の曲を集めたものです。まずは、有名なプーランクのソナタ。聞こえてきた音はまさにASVからのアルバムと同じ、ちょっと柔らかめのタッチの録音でした。データをみるとロケーションもエンジニアも同じですから、それはある意味当然のことでしょう。おそらくASVから出るはずだったものが、こんな形でリリースされることになったのでしょう。それはともかく、あくまで華美に走らない、しかし澄み切った伸びやかなスミスのフルートは、淡々とこの名曲を紡いでいきます。時折見せるさりげないルバートが、とても上品なアクセントになっています。
次は、非常に珍しい曲が続きます。多くの歌曲で知られるヴェネズエラ出身の作曲家アーンの「2つの小品」は、流れるような「女神の踊り」と、リズミカルな「魔法使い」との対比が素敵です。そして、ブルターニュ出身のロパルツの「ソナチネ」も、独特の浮遊感の中に、ケルティックなテイストも見え隠れする粋な曲、最後の楽章に親しみやすい楽想が現れるのも、彼の他の作品に共通した特色です。
続くデュティユーの「ソナチネ」は、いかにも彼らしい細部にまで神経の行き届いた丁寧な演奏です。これを聴けば、なにかと「教材」として扱われることの多いこの曲が、実は単なるテクニックを披露するだけのものではないことが改めて認識されるはずです。
そして、最後に控えていたフランクのソナタ(もちろん、ヴァイオリンのためのソナタの編曲)では、信じられないほどにゆったりとしたテンポの中で、この曲をなぜフルートで演奏しなければいけなかったかを納得させられるような、繊細で趣味の良い世界が広がります。そこからは、このベルギー人がいかにもフランスのフルート音楽の流れの中になんの違和感もなく佇んでいるさまを思い起こすことが出来ることでしょう。そして、それは彼の影響の元に、先ほどのロパルツにまでつながっていることも、スミスの演奏から思いを馳せられるようになるのです。
2008年の時点で、ソリストとしての彼の音色や演奏がどんなものなのか、ぜひ聴いてみたい気がします。
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by jurassic_oyaji | 2008-03-31 20:26 | フルート | Comments(0)