おやぢの部屋2
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拍手のルール 秘伝クラシック鑑賞術
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茂木大輔著
中央公論新社刊
ISBN978-4-12-003925-6


N響のオーボエ奏者、茂木大輔さんの最新の書き下ろし単行本です。あとがきではつい最近のシェレンベルガーとN響との共演のことに触れられていますが、この演奏会の模様は実は少し前の「おやぢ」でも取り上げていました。その時には、後半の交響曲でオーボエを吹いていた茂木さんの姿をテレビで見ながら、オーボエと指揮の両方で活躍しているという同じ立場の指揮者の下で演奏している彼の心中はどんなものなのかとても興味が湧いたものですが、それをご本人の言葉でこんなに早く知ることが出来ようとは。
茂木さんの著書には、以前から親しんできました。今では文庫本になってしまった彼のデビュー作「オーケストラは素敵だ」を読んだときには、とてもユニークな才能が現れたことに驚きすら感じたものです。しかし、それは彼の執筆活動のほんのスタート地点、それからの茂木さんの多方面での活躍ぶりには目を見張るものがあり、それらの体験の中から産み出された著作は、さらなる広がりを持ったものになっていきます。今回の新作を昔のものと比較してみると、文体までもが完全に変わっていることが分かります。
そんな、完璧に茂木さん独自のペースを身につけた軽快な語り口で繰り広げられているのは、タイトルの通りの「コンサートにおける拍手の正しいルール」、及び、「『今さら聞けないクラシック音楽に対する疑問』への回答」です。もちろん、それはそのような体裁を借りて茂木さんの音楽観をさりげない形で披露するという、非常に高度な仕掛けを持ったものであることは、十分に認識しておく必要があるでしょう。
そのためには、前半の章で述べられている彼の「クラシック」観をしっかりと噛みしめることが重要になってきます。彼の中での「クラシック音楽」というものは、様式的には(年代ではなく)バッハからシェーンベルクであると規定されています。それ以前は「古楽」、そしてそれ以後は「現代音楽」として、全く別の概念として扱われています。
そのような前提を設けた上で彼は「クラシックは敷居が高い」と主張します。これは、彼が行っている「のだめコンサート」などの趣旨とは矛盾するものではないか、と誰しもが思うかもしれませんが、彼は「敷居の高さこそが、クラシックの魅力である」と言いきっているのです。そうなのです。敷居を下げたとき、それはもはやクラシックではなくなっていることを、これほど明確に語ってくれたことには、まっとうなクラシック・ファンであれば誰しもが溜飲を下げるに違いありません。そんな彼だからこそ、日本人のクラシック演奏家がクラシックやそれ以外の曲を華やかにアレンジして演奏するいわゆる「J-クラシック」を「あれはクラシックではない」と決めつけることが出来るのです。「J-クラシック」は、「ライト・クラシック」と言い換えても差しつかえはないでしょう。茂木さんは、そのような安直なクラシックへのアプローチではなく、もっと苦痛を伴いつつも、いずれはたどり着くであろう実り多い世界の美しさを主張しているように思えます。
そのようなある意味堅苦しい内容を、なんの抵抗もなくすらすら読ませてしまう茂木さんの文章の魅力の秘密は、至る所にちりばめられた怒濤の「おやぢギャグ」ではないでしょうか。明らかにスベりまくっているにもかかわらず(「拍手の法則」は、その最たるもの)、その迫力には圧倒されっぱなしです。もぎ(もし)あなたのオーケストラが茂木さんに指揮をされるような機会があった時には、「タイ明けくん」とか、「仙台市役所すぐ戻す課」などと言われても困ったりしないで、的確なリアクションを返してあげて下さいね。
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by jurassic_oyaji | 2008-04-16 19:33 | 書籍 | Comments(0)