おやぢの部屋2
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VASKS/Pater noster
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Sigvards Klava/
Latvian Radio Choir
Sinfonietta Riga
ONDINE/ODE 1106-2



バルト3国の真ん中に位置するラトヴィアを代表する現代作曲家、ペーテリス・ヴァスクスの宗教曲集です。ヴァスクスは1946年の生まれ、お隣エストニアの有名なアルヴォ・ペルトが1935年生まれですから、ひとまわり後の世代の作曲家ということになります。ペルト同様、初期の頃にはさまざまな前衛的な手法に手を染めていたものが、ある時期から至極オーソドックスな三和音の世界へたどり着くという、現代の作曲家では少なからず見られるような道を経てきている人です。
このアルバムの曲は、1991年以降の作品、もはや彼の語法は確固としたものとなり、迷わずに信じた道を進んでいるさまがうかがえるものばかりです。その1991年の作品が、「Pater noster」です。混声合唱と弦楽オーケストラという編成、それは何も知らないで聴けば何百年も昔に作られたものだといわれても疑いを持たないほどの、穏やかな調和を持ったものでした。そこには、おそらく意識して取り入れたのでしょう、バッハの「マタイ受難曲」の「受難のコラール」を彷彿とさせるようなメロディ・ラインとハーモニーを感じることが出来るはずです。そして、その息の長いフレーズは、同じ「マタイ」の最後の合唱のような、圧倒的な力を感じさせてくれるものでした。慣れ親しんだ語法だからこそ、迫ってくるその力にも共感出来るのかもしれません。
次の曲は、1996年に作られた「Dona nobis pacem」です。実は、この曲の世界初録音というものを、かつてエストニア・フィルハーモニック室内合唱団の演奏で聴いたことがありました。その時にはこの曲の中に先ほどのペルトとよく似たテイストを感じたものです。これもやはり弦楽オーケストラが一緒に演奏していますが、その飽和した厚ぼったい響きは明らかにペルトを意識したものでした。今回の演奏は、同じ曲でありながらその時のものとはかなり肌触りが異なって、より洗練されたものに仕上がっています。それは、ごく短い「Dona nobis pacem」というテキストによる、事実上たったひとつのモチーフを執拗に繰り返す中で生まれてくる高揚感が、非常に見晴らしのよい形で見渡せるものだったからなのでしょう。それぞれのパーツの中ではナチュラルに振る舞っているにもかかわらず、それが重なりとなったときに発揮される大きな力というものを、大切にしている、これはこの作曲家の創作姿勢ともきっちりシンクロした演奏なのかもしれません。この作品は一見ミニマニズムのような外観を持っていますが、もっと根元的な自然界の現象(寄せては返す波のようなものでしょうか)などともリンクしているのではないでしょうか。
最後は、この中では最も大きな作品、「ミサ曲」です。構成的には、通常文から「Credo」を欠くという凝縮された形、本来は2000年に無伴奏合唱曲として作られたものですが、それがまずオルガン伴奏の形に改訂され、さらに2005年にここで演奏されている弦楽オーケストラ伴奏に再改訂されています。その伴奏のオーケストラが、まず、かなりのハイテンションで雄弁な音楽を作り出しています。それに続く合唱もテンションの高さでは負けてはいません。教会でしっとりと祈りをあげる、というシチュエーションとはちょっと違った、殆ど体育会系のノリの「叫び」がそこには見られます。その目指すところは、やはり自然の中で喜びを声高らかに謳う、といった趣でしょうか。そんな中にあって、「Sanctus」での民謡を素材とした素朴な楽想がひときわ印象的に響きます。
ハイレベルの技術を備えた上で、あくまで飾らないひたむきさを表現したラトヴィア放送合唱団は、生きていく上で何の役にも立たないムダな知識を披露することなく(それは「トリヴィア」)、ヴァスクスによって示されたシンプルな音楽の持つ大きな力の意味を、ストレートに伝えることに成功しています。
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by jurassic_oyaji | 2008-04-24 19:49 | 合唱 | Comments(0)