おやぢの部屋2
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OLDFIELD/Tubular Bells
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Elizabeth Bergmann(Pf)
Marcel Bergmann(Pf)
Jerome van Veen(Pf)
Sandra van Veen(Pf)
BRILLIANT/8812



マイク・オールドフィールドの「チューブラー・ベルズ」という曲は、まるでリヒャルト・シュトラウスの交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」のような扱いを受けてはいないでしょうか。共通しているのは、いずれも映画の音楽として使われたために大ヒットしたということ。そして、有名になったのは、それぞれの曲のごく一部分だけだったということです。
ご存じのように、スタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」で、まるでライトモチーフのような使い方をされた「ツァラ」の冒頭のトランペットのファンファーレに続く壮大な部分は、その映画の画面と見事なマッチングを見せて、殆どそこだけで単独に演奏されるようになっています。それ以降の残り90%は、まず聴かれることはないでしょう(この曲が使われるようになった経緯はこちら)。
同じように、「チューブラー・ベルズ」も、オープニングのミニマル風の部分が1973年に公開されたホラー映画「エクソシスト」の中で使用されたために、一躍有名になったという経歴を持っています。実際はLPの両面をそれぞれ「Part 1」、「Part 2」と分けた演奏時間が50分に及ぶ大作なのですが、こちらも全曲が、例えばラジオなどで紹介される機会などは皆無でしょう。
オールドフィールドがこの曲を作った1972年といえば、当時のミニマル・ミュージックの牽引者であったスティーヴ・ライヒが、それまでのコンセプトであった「音のズレ」から、スタイルをややホモフォニックなものにシフトしかけたあたりになるのでしょうか。その時のオールドフィールドの手法は、ですから、すでにライヒのスタイルを先取りしたものになっていました。さらに、マニエル・ゲッチングが、「アシュラ」名義でシークエンサーを使って同じような表現を試みたアルバム「New Age of Earth」を発表するのは、もっと先の1976年のことになります。
オリジナルは、オールドフィールド自身とサポート・ミュージシャンによる多くの楽器の演奏を多重録音で重ねたという、手間のかかったものです。それをライブで演奏出来るように、オーケストラのために編曲されたものが、1974年には、ロイヤル・フィルにオールドフィールドのギターがフィーチャーされて発表されています。それから30年経った2005年に、マルセル・ベルグマンを始めとする4人のピアニストがリアルタイムで演奏した、というのがこのアルバムです。
編曲も行ったベルグマンは前半の「Part 1」の部分だけを使って、2台のピアノ+2台のシンセサイザーのためのバージョンと、4台のピアノのためのバージョンという2つのものを用意しました。おそらく、その2つは同じ譜面を演奏しているのでしょう。そこで半分のメンバーがピアノではなくシンセを弾くことによって、よりオリジナルに近い音色が得られると考えたのでしょうか。その試み、単なる好みの問題かもしれませんが、ピアノだけの方がより完成度の高さが感じられるものに仕上がってしまったのは、ちょっと皮肉なことです。オリジナルの持つ、後のコンピューターの「打ち込み」からは決して得られないようなかなりいい加減なテイストが、この4人のピアニストによって忠実に再現されているのは良いのですが、そこにシンセの「手弾き」で例えばベース・ギターの模倣などが入ってくると、そこだけちょっと浮いてしまうのですよ。それだったらピアノだけの方がいくらかマシかな。というところでしょうか。
ですから、宙ぶらりんに同じものを2回聴かせるぐらいなら、その代わりに「Part 2」をしっかり録音して欲しかった、というのが正直な気持ちです。今となってはライヒの亜流にしか聞こえない(事実はそうではありませんが)「エクソシスト」のフレーズは、この壮大な作品のほんの一部でしかないということこそを、全曲の演奏から知らしめるべきではなかったのか、と。
by jurassic_oyaji | 2008-05-12 21:13 | ポップス | Comments(0)