おやぢの部屋2
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MOZART/Sonaten & Variationen
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Peter Waldner(Clavichord)
EXTRAPLATTE/EX-663-2



「クラヴィコード」という楽器のことは、ここで何度となく取り上げていますから、どんなものであるかというおおよそのイメージはお持ちになっていることでしょう。ほかの鍵盤楽器と異なるのは、弦を叩いたり(ピアノやフォルテピアノ)はじいたり(チェンバロ)するのではなく、金属片を弦に「押し当てる」ことによって音を出すという点です。従って、ピアノのような複雑なアクションを用いなくとも、鍵盤を叩く力によって音の大小を付けることが出来ますし、弦に当たった金属片はいわば「駒」に相当するわけですから、鍵盤によってそれを動かせばピッチを変えてビブラートのような効果を出すことも出来るという特徴を持っています。
ただ、この楽器は極めて小さな音しか出せませんから、現代の大きなホールでのコンサートに用いられることはまずありません。それこそちょっとしたお屋敷のサロンなどで、ごく近くでその演奏を聴く、といった特別な機会でもないことには、なかなか実際の生の音を聴くことは難しいでしょう。もちろん、私もまだ生クラヴィコードを聴いた経験はありません。
そんな珍しい楽器なので、どうしても接するのは録音を通して、ということになってしまいます。今まで数種類、この楽器を録音したCDを聴いた時には、その繊細さというものが強く伝わってきていたような気がします。なにしろ弦から発する「楽器としての音」以外にも、アクションなどがかなり派手な音をたてるもののようですから、そんなノイズを聴かせまいとすると、いきおい録音レベルを下げるとか、かなりオフマイクにせざるを得ないのでしょう。その結果、それは遠くの方でかすかに鳴っているような風にしか聞こえては来なかったのです。
ところが、このCDはどうでしょう。そんな楽器の音を、必要なものも必要でないものもまとめて味わってもらおう、という姿勢なのでしょうか、思い切り接近した位置のマイクでとらえられたその音は、現実にはまずあり得ないほどのものすごいものになっていました。言ってみれば、細かいところまでがまるで顕微鏡で拡大されたような音でしょうか。
そういう録音の元で演奏されているのが、モーツァルトのソナタや変奏曲です。しかも、クラヴィコーディスト(?)のヴァルトナーは、かなり豊かなパッションを演奏に込めたがる人のようですから、この楽器の特性をめいっぱい活用して、とてもダイナミックな表現(つまり、極端なクレッシェンドとディミヌエンド)を聴かせてくれています。イ短調のソナタ(K.310)でそれをやってくれるのですから、それはものすごいものがありますよ。まさに超異端の音楽、最初のフレーズの抑揚は、ピアノで演奏してもこれほどのものは表現できないのでは、と思えるほどの、まさに鬼気迫るもの、そのパターンでひたすら押しまくってきますから、正直聴かされる方としてはかなりの疲労を伴うものになってきます。
ただ、そんな疲労感は、ある瞬間を過ぎると快感のようなものに変わることもあります。そして、もしかしたらこんな「優雅」とか「典雅」といった言葉からは遙かに遠くにある演奏と、そして「音響」は、モーツァルト自身が聴いたとしたら、案外気に入ってしまうのではないか、という気持ちにもさせられてしまいます。2楽章あたりで味わえる、まるでマンドリンかリュートのような不思議な響きも魅力を誘うのでは。
「きらきら星変奏曲」はもっとラジカルです。特に、低音の細かい動きでの洗練とはほど遠いたどたどしさと、その時の音色の不均一さは、ほとんどエフェクターによるディストーションのようには聞こえないでしょうか。それは時代を超えて、例えばキース・エマーソンあたりにも通じようかという、躍動に満ちた音楽です。パワフルなロックのスピリットまでモーツァルトから引きだした、これはものすごい演奏(+録音)です。
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by jurassic_oyaji | 2008-05-24 19:37 | ピアノ | Comments(0)