おやぢの部屋2
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音楽遍歴
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小泉純一郎著
日本経済新聞出版社刊
(日経プレミアシリーズ
001
ISBN978-4-532-26001-9



書店のクラシック・コーナーにこの本が平積みになっているのを見て、一瞬著者の名前を音楽関係者だと思ってしまいました。こんな名前の評論家、いませんでした?(それは、「小沼純一」)
もちろん、この方は、何代か前の(どのぐらい前だったのかは忘れてしまいましたが)総理大臣をなさっていた、あの人です。確かに、総理在任中にMETの楽屋に行って一緒に歌ったり、バイロイトにヘリコプターで乗り付けたりと、音楽がらみのスキャンダルが大々的に報道されたことがありましたから、政治家にしては音楽に関しての造詣が深いのだな、という程度の認識はありましたが、こんな本まで書いてしまうほどだったとは。もっとも、「著者」とは言ってますが、小泉さん自身が原稿用紙に向かった(いや、今時は普通は「パソコンに向かった」でしょうか)わけではなく、日本経済新聞社文化部編集委員、というよりは殆ど音楽評論家として知られている池田卓夫さんが小泉さんにインタビューをしたものをまとめたという、最近よく見られる形の書物です。それをさらに高付加価値のものとするために、適宜池田さんが注釈を加えたり、巻末にインタビューの中で取り上げられていた作曲家や作品をまとめて解説したりしています。ただ、正直、これらの付属物は、親切心の押し売りのような気がして、なくてもよかったかな、という気がします。
つまり、こんな懇切丁寧な「解説」が邪魔になってしまうほど、この中での小泉さんの「語り」は、生き生きとした情熱をストレートに感じさせられるものだったのです。ご自身のクラシック音楽との出会い、そして、それをより深いものにしていく体験を、これほど率直に語ったものには、そうそうお目にかかれるものではありません。
そこから浮かび上がってくる姿は、紛れもない「クラヲタ」の世界ではありませんか。彼の音楽との出会いがヴァイオリンだった、というのは非常に意外な気がしますが、そこから一筋にヴァイオリンの曲を聴き続けて、ついにはリピンスキなどという、生地ポーランドの音楽学者でも知らないようなマイナーな作曲家の作品にまでたどり着く、という課程が、なんの衒いもなく述べられているのが、ちょっとすごいことです。その結果、これは本編で小泉さんが語っていることではないのですが、そのリピンスキの曲を録音していたポーランドのヴァイオリニスト、クルカが来日したときに、大使館で催されたコンサートに列席した小泉さんに「あなたのリピンスキの演奏が、もっとも素晴らしい」と言われて、目を丸くした、という「事件」につながるわけです。いやあ、こうなると、まさに筋金入りの「マニア」の域まで達していると言わなければいけなくなってしまいます。
そんな小泉さんの「マニア」への極意は、とにかく繰り返し聴いて、最初はほんの一部分だった「気に入った」部分を、だんだん増やしていって、最後にはその曲全部を気に入るようになることなのだそうです。これは、まさにクラシック・ファンの原点ではありませんか。今でこそえらそうにマニアぶっている人たちも、クラシックとのとっかかりは、まさにこの「気に入った部分を増やす」という作業だったのではないでしょうか。あまりにも多くのCDやコンサートにあふれかえっているこの時代、つい、なぜ音楽を聴くのかという初心を忘れがちになっているときに、なんと元総理大臣からその心構えを再認識させられるのですから、油断とは恐ろしいものです。
彼が、ここまでのマニアに育った原動力は、飽くなき好奇心です。それによって、ご自身の精神的な糧はあふれるほど豊かなものになったことでしょう。しかし、その成果はあくまで趣味の領域のみでとどまり、本業の方にはなんら及ぶことがなかったのは、非常に残念なことです。
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by jurassic_oyaji | 2008-05-26 19:54 | 書籍 | Comments(2)
Commented by hoto at 2008-07-15 22:05 x
この本、盗用騒ぎがあるようですが、本当ですか
(新潮6/19号)
Commented by hoto at 2008-07-15 22:06 x
この本、盗用騒ぎがあるようですが、本当ですか
(新潮6/19号)