おやぢの部屋2
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Negro Spirituals & Musical Highlights
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小澤征爾/
東京混声合唱団
TOWER RECORDS/NCS 623


タワー・レコードが継続的に行っている、今ではメーカーからは顧みられなくなった音源を復刻するという仕事は、なかなか順調に進んでいるようです。今回のビクターの音源には、1961年に録音された、小澤征爾の指揮による東京混声合唱団の黒人霊歌とミュージカル・ナンバーというとんでもない珍品が含まれていました。もちろん、こんなものは初CD化です。
東京混声合唱団は、この5年前に日本初の「プロの」合唱団として誕生した団体です。メンバーは全員が芸大の声楽科を出た人たちですが、もちろん合唱だけで生活していくのは大変なことだったでしょう。こういう、言ってみれば「軽い」曲の録音も、手を抜かずに行わなければ、明日はない、という状況だったのかもしれません。かわいそうに(同情混声合唱団)。
1961年と言えば、その2年前にブザンソンの国際指揮者コンクールで優勝した小澤が、めでたくニューヨーク・フィルの副指揮者に迎えられ、その来日公演に同行して意気揚々と「故郷に錦を飾った」年に当たります。とは言っても、なにしろ指揮者としては駆け出しですから、こんな録音にも「お仕事」として加わることになったのでしょうか。彼としては、こんなものは「なかったことにしたい」仕事なのかもしれませんね。そもそも、こういう録音は「小澤」とか「東混」のアルバムと言うよりは、演奏している人はどうでもいいような「名曲集」といった趣のものでしょう。小澤にしても、たまたまスケジュールが空いている都合のよい指揮者、ということで起用されただけなのかもしれませんし。
従って、このアルバムから現在の「小澤」ブランドをイメージすることにはなんの意味もないはずです。聞こえてくるのは壮大なヒスノイズ、エコー・チェンバーでも使ったのでしょうか、いかにも見てくれだけの貧相なエコーが、あのころの日本のメーカーのお粗末な録音を思い出させてくれます。
しかし、そんな「名前」にとらわれず、演奏だけに耳を傾けると、これはなかなか楽しい仕上がりになっています。「A面」の黒人霊歌(ってジャケットに書いてありますが、使っても構わない言葉なんでしたっけ?)は、おそらくウィリアム・L・ドーソンあたりの編曲でしょうか、まるで、ロジェ・ワーグナー合唱団のような深い響きが味わえます。英語の発音とか細かいことを言えば、不満は多々ありますが、この時点での演奏としてはかなりのものなのではないでしょうか。なによりも、メンバーそれぞれの発声が、不必要に感じられるほど立派なのですからね。ソリスト(もちろんメンバーが担当)などは、サリー・テリーより凄いかも。
「ドライ・ボーンズ」とか「主はダニエルを救いたもう」などにはリズム楽器が加わります。そうなると、幾分力が抜けたのか、とても軽やかな歌になってくるのが素敵です。「ダニエル」など、もう少し洗練されたものであれば、まるでレイ・コニフ・シンガーズと同じ次元で語ることだって出来そうです。
「B面」は、南安雄の編曲で、ミュージカル・ナンバー、ここにはバックに「原信夫とシャープス&フラッツ」などという、当時絶大な人気を誇ったビッグ・バンドが加わっています。もちろん、「キャッツ」や「オペラ座の怪人」が演奏されているわけはなく、その時点での最新ヒットであった「ウェスト・サイド物語」からの「トゥナイト」以外は、ロジャース/ハマースタインなどの古色蒼然たるナンバーが主体です。これはコンサートのライブ録音なのだそうです。拍手をカットするために、曲の最後が無惨にもチョン切れているのが難ですが、なかなか楽しそうな雰囲気が伝わってきます。これから10年ぐらい経った頃、全国のアマチュア合唱団で、このようにバックにバンドを入れてポップス・ナンバーを演奏することが大流行します。これは、そんなムーヴメントの先駆けだったのかもしれませんね。
そんな先のことではなく、この翌年には小澤はN響の団員に演奏をボイコットされるという事件が起こりますが、そんなことは、このアルバムを聴くときに考える必要はないでしょう。
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by jurassic_oyaji | 2008-06-05 19:50 | 合唱 | Comments(0)